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障害等級制度への問題提起

『ゼンコロ116号』1997年10月

1.障害の認定と等級制度への問題認識

 今から二十数年前のことです。諸外国の障害者関係制度について、比較的その制度に詳しい人を招いて話を聞く会があり、私も参加しました。 ここでは「職業リハビリテーションと就労」「所得保障」「補装具」などの諸制度が中心になったと記憶しています。この席で私は、かねてから知りたいと思っていた“障害の認定と障害等級”について、諸外国ではどのように定められているか教えてほしい、と質問したところ、誰彼も答えられませんでした。等級など聞いたことがないという点だけは共通でした。そのときから私はどうもわが国で行われている障害の認定や等級制度は独特のものらしい、と思うようになり、諸外国とは違い、その理由はなんだろうかと考えるようになりました。
 昭和49(1974)年に、私は初めてヨーロッパ(イギリス、イタリア、スウェーデン、デンマーク)を訪問することができました。 当時の私の主な関心事は、保護雇用制度と所得保障の問題でしたが、障害の認定と障害の程度の判定がどう行われているかを、この機会に知ることも念頭にありました。
 考えてみれば、なんとも“まだるっこい”話であると、今振り返って思いますが、当時は疑問ももたずに、こんな問題も自分で調べるしかないと思いこんでいたのです。昭和24(1949)年の身体障害者福祉法制定、昭和35(1960)年の精神薄弱者福祉法制定に際して、政府は諸外国の障害者制度を調査しており、各国の障害者の範囲のとり方や、認定方式を参考にして法案を作成したのでありますから、わが国の政府に説明を求めるべきであったのだろうと、今は思い返しています。
 昭和30(1955)年のILO第99号勧告「障害者の職業更生に関する勧告」を、政府は「身体障害者の」と誤訳をしましたが、正しくは“精神的または身体的障害”であったことを承知していたことは明らかです。また、身体障害者福祉法の制定にかかわった故松本征二氏の「身体障害者福祉法の解説」によれば、国の財政的理由で法制定時は“身体障害者”に限定するが、逐次“精神薄弱者”や“精神障害者”に対象を広げていく方針であったと説明されており、障害者の範囲については国際的な常識を把握したうえで作業が行われたことは明白であります。
 ヨーロッパ各国の障害者の範囲は大ざっぱで、その範囲は広くしてあるものの、必要な社会的サービスは、稼働能力の喪失度を中心にして、日常生活の不自由度を含めて、個別に認定され、それぞれの個人に必要な社会保障の諸サービス(所得、就労、介護、福祉機器等)が行われる仕組みになっていることは、今では周知のことです。
 日本のように等級を定めて、画一的にサービスを行う制度とは根本的に異なるのです。 そういうことを私は、ヨーロッパに行って初めて知ることができたのです。しかし、私は最近まで、わが国の等級制度は“日本的几帳面さ”という認識が一面にあり、また、個別というのは大変だろうという思いもあって、この制度のもつ基本的な問題について、問題を感じながらも深く考えないまま今日まできました。しかし、自立を基本とする障害者施策の実現を追求するにしたがって、等級制度のもつ矛盾が拡大してきたという感は否めず、再検討への問題提起を行うことにしました。

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2.等級制度の具体的な問題点

 つい最近(9月)、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の精神障害者の医療と福祉サービスの実際を勉強する機会を得ましたが、そこで強調されていたのは「個人を対象にした多様なサービス」でありました。個人毎の必要なニーズへの具体的な対応が基本だということです。
 わが国は、障害者の範囲は精神障害者まで広げられましたが、原因の如何にかかわらず、実際に障害のある人々がまだ多く法の外にあります。
 諸外国の障害認定は、わが国のように身体障害、精神薄弱、精神障害と限定的に定めておらず、原因がなんであれ、労働能力や日常生活に能力低下や不自由があれば、障害認定の対象になります。しかし、障害のレベルと必要な社会保障サービスは、個人毎に具体的に決定されます。わが国の場合はまず等級格付けが行われます。年金の等級は独自の認定ということになっており、『障害者の雇用の促進等に関する法律』では労働省令という表記はありますが、基本は障害者福祉3法の判定が基本になっていることは明らかです。
 一般的に1〜2級が重度、3〜4級が中度、5級以下が軽度といわれています。年金は概ね重度が1級年金、中度が2級年金となっています。しかし、同じ1級でも稼得能力という点からは0%〜300%という巾があります。障害が重複しているとか、四肢まひなどで常時介護を必要とする人がかなりの数で存在しています。私の近いところで働いている脊髄損傷障害者は、仕事の量と質の両面からみると普通の3倍くらいの仕事をこなしています。衆議院にも素晴らしいエネルギーをもった車椅子を使う議員さんがいます。こういう障害者にとっては、移動や医療に余分な費用がかかる以外は環境整備の問題であります。
 また、たとえば障害等級2級(重度)で、1級の障害年金を受給している人と、日常生活に介護を要するレベルの人との間の生活条件の著しい格差も目につきます。同じ中度の障害であっても、障害の部位や種別によって、労働能力の低下、喪失の度合が大きく異なっていることは、今日では明らかになっています。
 日常生活の不便の度合を中心に評価する現行の障害等級判定は、とくに稼得能力の喪失の度合の大きい人ほど、現実に合わなくなっていると言わざるをえません。 ここを改めないかぎり、働いて生活に資する収入を得ることのできない障害者は、障害者施策の基本である「地域自立」は実現できないのであります。

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3.等級制度の全面的見直し

 障害者の自立は、障害者関係法だけでなく、生活保護法や年金法その他の諸制度を総合的に運用することによって、それを実現するのだ、という整理の仕方もあるという人がいます。
 年金は、生活のすべてを賄う額として性格づけられていないし、その収入しかなければ生活保護の受給も可能であると説明されます。
 しかし、老齢年金は自営業の他は生活できる年金の額にほぼ到達しています。生活保護が、失業や疾病あるいは主な働き手の死亡などによる、一時的な救貧の制度であることは、改めて言うまでもなく、ミーンズ・テスト、世帯原則、親族扶養、他法優先、その他の諸原則に明らかであります。障害者が長い期間、普通の生活者として生きていく制度としては適切ではありません。多くの先進国がそうであるように、年金を中心として経済的自立が可能となる制度が求められています。
 そのためには、等級によらず、個人の状態に応じて、必要なサービスを決定していく制度へと見直すことが必要です。同じ重度でも稼得能力あるいは稼得状況に対応し、日常生活の不便度も考慮に入れた諸サービスと、そのプログラムを決める制度へと転換することが必要だと考えます。
 識者によると、等級制度は福祉の直接的な行政ではほとんど使用されてはいない、と言います。その他の法律や制度がこの等級を利用しているために、矛盾が拡大しているともいえるようです。それなら等級制度を廃止しても問題はないということになります。
 障害が重いために、年金しか収入がないか、あるいは少額の稼得収入しかない障害者にとって、稼得収入が一定額以上ある障害者と同じ年金額であっては、到底自立は不可能です。
 障害者の自立という場合、意を注がなければならない対象者は、職業的ハンディの重い人々であることを改めて強調するまでもないと思います。
 わが国独特の障害等級制度を抜本的に見直して、個別のニーズにそったサービス給付が行われるような制度に改められることを提案したいと思います。

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