最近の動きから
『ゼンコロ123号』2000年04月
1.介護保険法の実施に関して
4月1日から介護保険法が実施段階に入りました。いろいろ問題はありますが、この制度をより改善し、利用者本位のものにつくりあげていくということが基本であると、私は考えます。「介護保険の対象となる障害者の介護については、保険で足が出る分は障害者福祉の費用を充当し、これまでのレベルを下げないし、障害の程度や種別による介護の多様性にも対応する。例えば介護を受けつつ積極的な社会参加をするためのガイドヘルパーの派遣などを行う」という要旨を、厚生省障害保健福祉部は示しています。したがって、介護保険法による介護度や介護サービスの質について、レベルダウンになったり、不満がある場合には、福祉事務所など、障害福祉部門に申し出ることが大切です。それでも解決しないときには、地域の障害者団体等に相談するなどして、改善運動に高めていくようにしたいものです。
障害者の介護制度については、それが高齢期という比較的短期の介護と異なり、生涯にわたる場合さえある長い期間の支援が必要となるものであり、家事援助などを受けつつ、通常の雇用労働に就く者から、全介護の必要な者まで幅が広いという特徴があることを念頭において、介護制度というより総合的な生活支援策の一環として制度化することが必要であります。
厚生省は、介護保険法の制度化に踏み切ったときに、障害者の介護は、当面この法の対象とせず、まず障害者介護の内容や制度の在り方を検討したあと、財源問題を考える、本格的な制度が実現するまでは当然公費で実施する、と障害者団体に答えたのであります。
これまでの障害者介護は、身体障害者を中心に介護を進めてきており、知的障害者や精神障害者の介護(日常生活支援を含む)は家族に依存し、あるいは多くの人々を施設または病院に収容して処遇しているのであります。
ノーマライゼーションの理念にそって、地域での生活への流れを正しく受けとめ、その流れを実現する視点で障害者介護の制度化が行われなければなりません。これは当然のことです。
障害者プランは、すでに5年目に入りました。早急な制度化が求められていると思います。
2.年金法の改正の実現に関して
せめて無年金者の問題だけでも解決してほしいという、障害関係者の願いも受け入れられないまま、年金法の改正が国会で採択されました。
障害のゆえに、自らの力で生活費を得ることのできない稼得能力の喪失度合いの大きい人々への、年金制度による所得保障の実現という課題に、また、重い一石が投じられたことになります。
急激な高齢化社会の進展とか、国民年金の掛金の未納者が3分の1近いなどの社会的背景や要因が前面に出されて、障害者への所得保障どころではないといった論調になっております。
『その国の科学や文化、産業・経済の発展と到達点のテンポや水準と、社会保障の面が同時に進展しなくては、矛盾は拡大し、改善が改善とならず、逆に矛盾をより拡大する』という意味のことを言った人がいますが、わが国が、現状はやや停滞しているとはいえ、世界の中ではトップレベルにありながら、社会保障の面、とくに社会福祉の分野は、その到達点ではるかに遅れている事実は、財政構造からも明らかであります。
今回の年金法改正で3年後には、国民年金の国庫負担率を現在の3分の1から2分の1にすることが、付則で明記されたことに、わずかに希望の糸を残しましたが、なんとしても打開策を出さなければなりません。
急激な高齢化社会の進展の対応策として、現在の稼働年齢18歳〜60歳から、18歳〜65歳までとする社会政策を講じて、年金は65歳または66歳からとすること。但し60歳以上になると個人差が生じるので、早期年金制度を用意することが必要でしょうが、そのような社会政策はとれないか。
また、国民年金分は、現在の国の全体的な財政収支構造を公開して、広く国民の意見を聞いて、真に必要であれば増税をしてでも、全額国庫負担とする制度とする。その中で障害者の所得保障を実現することにしたらどうか。これは私の意見ですが、例えばこうした提言を経済学者や社会学者などの専門家に問うてみたらどうかと思います。当然のことですが、各政党や国会議員個々にも、また国民にも訴える必要があります。
政府や国会が実現の方策も出してくれないのであれば、私たちが国民に訴え、広く専門家によるプロジェクトを立ち上げてでも、動くべきだと思います。 それとも、成り行きにまかせますか?
そして、ノーマライゼーションなどということは、当分やめました、と言いますか? それができないのなら、道をつけるべきであると思います。
3.交通バリアフリー法など
正式な法律名を「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」と称し、略称を『交通バリアフリー法』という法律が制定されました。
従来は、交通機関のバリアフリー化については、車輌や駅舎等の改造等を、事業者を行政指導して、企業努力によって実施させるとの方針をとっていましたが、平成11年度補正予算で景気対策と関連させて50億円を計上し、公費助成によるバリアフリー化を進めることに方針転換したものです。今年度は73億円余の予算が計上されており、予算関連法として国会に提案されたのです。
本法による公共交通機関とは、鉄道・軌道、乗合バス、旅客船、航空事業を言い、範囲は車輌、駅舎、軌道停留所、バスターミナル、旅客船および航空ターミナルであります。また、特定旅客施設を含め、旅客施設と官公庁や福祉施設の間の道路、周辺の道路や施設のバリアフリー化を進めるとしています。
この事業を推進するために、主務大臣(運輸)が基本方針を定め、その方針にそって市町村が基本構想を作成することになっています。 事業者は、新規の車輌等の製造や駅舎等の新設に際しては、バリアフリー化は義務とされ、改造については努力規定とされておりますが、改造等には公費補助(3分の2)が行われるので、市町村の構想にそって実施する努力をしなければなりません。
運輸省によれば、1日の乗降客5千人以上の旅客機関については、10年以内にバリアフリー化を実現する方針で進めるとしています。 民主党も、移動の権利性を明記することや、計画策定の際、障害者など当事者の参加の規程化などを盛り込んだ独自の法案を出しましたが、妥協に至らなかったようです。
この法は、すでに制定されている公共的建造物のバリアフリー化のための「ハートビル法」とともに、しっかりした対応が行われれば、移動の障害が取り除かれ、当事者だけでなく、多くの国民にとっても、やさしい環境が整えられることになるでしょう。
移動障害のある車いす利用者など、多くの障害者のねばり強い運動が、こういうかたちで実を結び、社会全体を改造・改善していくことになったことに、私たちは誇りをもちたいと思います。
このほか、社会福祉基礎構造改革関係の法律も、この原稿を執筆中はまだ国会にありますが、よほどのことがない限り、採択されるだろうと思います。
このことについては、すでに多くを書きましたので、今回はふれません。
私事になりますが、私が糸賀一雄記念賞を受賞したことにともなう、お祝いの会の開催など、先輩や仲間からのご厚志にたいしまして、心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。