衣食足りぬ人々
『JDジャーナル』1999年08月
「衣食足りて礼節を知る」という古い言葉がありますが、今は衣食が足りても礼節を知らない人が増えたという人もいて、この言葉はほとんど使われなくなりました。しかし、わが国には未だに人間の生活の基本である衣食住の足りない人々が、障害者の中に数多く存在していることは、関係者の間ではよく知られています。にもかかわらず、このことが社会問題として表にしっかり出ないことは奇妙なことであります。
平成11年度の障害基礎年金月額は1級83,775円、2級67,017円となっており、1級の年金額は生活保護法の基本生計費83,850円(1級地、1類+2類の合計)とほとんど同額です。しかし、生活保護にはこれに障害者加算(月額27,000円)があり、住宅扶助や介護加算(他人介護−基準月額61,000円、大臣承認だと153,000円)などが加算されるしくみです。
この生活保護法は、憲法25条の『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』を受けたものであることを、法第1条で定めています。そして第4条で(1)資産・能力等の活用の原則、(2)民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養の原則、(3)他法優先の原則が定められています。
労働能力においてハンディが重く、自らの労働によって生活を維持するだけの収入(稼得収入)を得ることの困難な人々は、生活保護を受けて生活すれば、とりあえず現状より改善されるとの意見があり、現実に障害者の被保護率は一般世帯の3倍以上であります。
しかし、この問題はすでに私たちの間では論議を尽くしてきました。多くの人々は民法の扶養義務の規定のもとでは生活保護の受給は困難であり、また、ミーンズテストなどの監視付きで、長い生涯を最低限度の生活の枠に押え込まれる制度のもとで衣食住を保障するのは、個人の尊厳を基調とする人権のうえからも正しくないとの結論を得ています。
一方で、年金制度で衣食住の保障をしてほしいとする障害関係者の主張については、年金制度そのものの現状維持さえ困難な予測のもとで負担増と支給水準の引下げを図らなければならないときに、それは不可能であると、行政や国会は冷やかであります。
一般の雇用に就けず、社会就労センター(授産施設)や小規模作業所等で就労する人々の工賃は全体平均で月額1万円程度であり、年金と合わせても、とても衣食住には足りません。
職業的なハンディの重い人々に対して、この経済大国はいつまでこの状況を続けるのでしょうか。