進まない精神障害者施策
『JDジャーナル』1999年01月
今回の構造改革の流れの中で、障害者分野の施策に、多少は質的前進があるものとの期待があった。なかでもとくに遅れている精神障害者福祉の面では、少なくとも他の障害と同じレベルの福祉制度へ当然引き上げられるであろうと、私も期待していた。
しかし、その期待ははずれ、第一種と第二種社会福祉事業の制度はそのまま維持されて、精神障害者福祉は、第二種のままとされ、身体障害や知的障害の格差を残した。その理由をただすと、精神障害者との施設は医療法人等の設置経営を認めているためであるという。
今回の改革の柱のひとつに「多様な経営主体の参入」があげられている。これは民間企業や生活協同組合、農業協同組合、それに新しい法人としてNPOなどが視野にあるといわれており、考慮すべき5項目をあげて検討をすすめるとしている。
このような考え方、流れからすれば、精神障害者の福祉が医療法人等による設置運営を認めていることを理由に、第二種の格付けを変えないことは論理矛盾である。正当な理由もなく精神障害者と他の障害者の格差を設けることは、精神障害者の福祉をさらに遅れさせることになる。
また、他の障害者の福祉が、制度的にも福祉施設としているのに対して、精神障害者のみが社会復帰施設と呼称されていることも理解できないことであり、施設の運営費が、身体障害関係の3分の2、知的障害者関係の2分の1という低額補助の根拠になっているとしたら許されないと思う。どうしても第二種に残すというなら、運営費は他の障害と同レベルに引き上げられるべきだと思う。それができないとしたら行政はきちんと説明をすべきである。
今、地域で暮らす精神障害者の大部分を扶養しケアしているのは親や家族である。新聞報道でご承知と思うが、35歳の精神障害者(分裂病)が犯した殺人事件で、70歳の父親に1億円の賠償金の支払いを命じる判決が下された。保護義務者の自傷他害の監督義務を怠ったという理由からである。こういう非現実的で苛酷な責任を、日常のケアに加えて、親や家族に課しているのはこの国だけである。先進国では地域で暮らす精神障害者のケアをPSWやナースなど専門教育を受けた人によって、メンタルヘルスの地域ケアシステムが確立され、一人ひとりにきめの細かいサービスが行われている。親や家族の支援はプラスアルファとして行われている。腰の入った精神障害者施策を求めたい。