基本問題が欠落している
『JDジャーナル』1998年10月
障害者施策推進本部の事務局を担当する総理府障害者施策推進本部担当室が、市町村障害者計画の策定を求めたとき、そのキーワードとして示したのは、「完全参加と平等」「ノーマライゼーション」「QOL」「リハビリテーション」「バリアフリー」の5項目である。これを一括して日本的にまとめれば、個人としての尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇の保障である。すなわち障害者プランの基本に掲げられた“自立した生活”への条件をつくることである。
そのための施策は、障害の種別や程度などによって多様性が求められるのは当然である。各種リハビリテーションや、バリアフリー、情報やコミュニケーション保障などによって、自立が可能となる人々がいる。また、そうした施策によっても自立困難な人々があり、全身性の身体障害や知的障害、精神障害など稼得能力に大きい損傷のある人々にとっては、所得保障制度が欠かせず、これにケア(介護)、住居などの支援と整備が必要である。さらにデイサービスなど多様な社会参加への条件整備を、施設制度の見直しとその運用の中に位置づけることが求められるのである。
これらは“すべての人々のための社会づくり”を標榜する「障害者施策に関する新長期計画」を実現するために、欠かせない施策である。
この9月上旬から中旬にかけて、私はオランダ(アムステルダム市、ハーグ市)スウェーデン(ストックホルム市、ウプサラ市)イギリス(ロンドン市)でデイサービス施設とその事業、国の制度等を見聞した。これは(最)重度障害者の処遇制度とその実際を知ることであった。流れは確実に入所施設を縮小、または解体して地域ケアに移す時代に入っているということであった。費用よりもフィロソフィー(哲学)の問題だと、これらの国の人々は言う。これに比べてわが国はまだ入所施設を増やしているのだ。私自身もかかわって努力した授産施設(社会就労センター)でさえ、通所原則、入所から通所への厚生省の見解を含めた提言は、少しも前に進んでいない。所得保障制度の未整備と、デイサービスの進展がないことに主な原因がある。稼得能力の点からみた重度障害者への所得保障は消耗ではなく、金が回ることになるという考え方が、訪問したヨーロッパの国にはあった。商品券を一律に配るというような発想より、消費せざるを得ない重度障害者の所得保障こそ景気回復につながるとなぜ考えないのかと思う。