21世紀初頭に
『JDジャーナル』2001年01月
20世紀は、戦争と虐殺の世紀であったと言われています。また、その一方で科学発達の世紀であったことも確かです。さらに言えば、植民地時代が終わり、多くの独立国が生まれた世紀でもあり、民族の自決権とともに個人の人権意識が高まった世紀でもありました。障害者問題もこうした背景のもとに社会のひとつの主題となったということができます。
総じてみれば、20世紀は、それまでの数世紀の変化に比べて大変革を遂げた時代であったのであり、その中身を吟味し、しっかりと総括しておくことが必要であろうと思います。
21世紀初頭の今、前世紀からの変化はいっそう加速しており、ITに先導された新しい社会革命の時代に入ったと言われています。
直径10メートルの大望遠鏡で観測する宇宙からは、スーパーコンピューターによって、何億光年という信じられない距離の情報をもたらすようになっています。ヒトゲノム・遺伝子解析研究は、解析段階をほぼ終えたという到達点にあって、すでにクローン生物(羊・猿など)を造り出しており、一部の病気に対して遺伝子治療も実施されるようになっています。人間の能力では捉えることができない世界を人知によって捉えて、解析し、利用するのであり、その流れは急激であります。
IT産業に期待するのでなく、ITによる産業、経済、物流、社会構造、政治等々への影響がどうなるかに関心をもつべきであります。IT革命といわれるものは知識(価)革命であって、物づくり中心の産業社会(その前は農業社会)から知識(価)社会時代への革命的変化が予測されているからであります。
こうした動向を念頭において、障害児・者の問題にかかわっている私たちは、今後のことについて、あれこれと心を砕かなければならないでしょう。とくに職業分野や、就労事業関係者にとっては、最大関心事であることが望まれます。そして大切なことは、社会がどのように変化しても、自由と平等(人権)を軸に、ノーマライゼーションの理念とその具体的な実現というテーマは変わりません。それを政治に求めていかなければなりません。
政治には哲学と先見性が必要であり、哲学が追えなくなった政治(家)は終わりです。
この国の障害者問題がいまだに核心部分にふれていないのは、率直に言って、政治体質の古さというほかはありません。IT時代に未だ農業社会の家族制度を残している、それはまさに古さの象徴です。