隔離収容からの転換を急げ!
『JDジャーナル』2000年07月
欧米先進国では、40年前から精神医療を隔離収容(入院中心主義)から転換して、通所医療、地域ケアへと移行しはじめた。
現在、ヨーロッパでは国によって多少異なるものの、入院患者は、当時の10〜30%に減っており、外来通院、地域ケアが当たり前の制度になっている。
アメリカでも、1955年に56万床(全国の州立病院のみ)あった精神病床は、1992年には9万床に減っている。アメリカの場合は、地域での受け入れ体制を整備しないままで退院させたため、当分は悲劇的とさえいえる混乱がみられたが、今日では地域ケアの整備も進んでいる。
こうした転換への背景は、人権思想の高まりや向精神薬の開発にあることは、少なくとも障害分野の人々は周知のことである。
しかるに、である。経済先進国であるわが国の精神医療と精神障害者への各種施策は、形のうえでは、いかにも進んでいるようにみえるが、その実態は、欧米に比べて質的な乖離があり、隔離収容の体制が変わることなく続いているのである。
1960(昭和35)年に8万5千床だった精神病床は、昭和50年代には28万床に増え、1985(昭和60)年には36万床へと、25年間に27万5千床も増やしたのである。欧米が隔離収容から通所医療と地域ケアに転換しはじめた時期に、わが国では逆に本格的な隔離収容政策を進めたのである。しかも増床の主役は民間病院であり、現在の精神病床の90%は民間病院であるのだ。
そして現在も最大時より若干減ったとはいえ、34万人の患者(障害者)が病院に収容されているのである。約50%は5年以上の入院期間であり、入院患者の40%は60歳以上である。ホスピタリズムによる社会的適応の困難な状態に落ち込む人々をつくり出しているのである。
一方、精神障害者の社会復帰施設(援護寮、福祉ホーム、授産施設、福祉工場)は、475施設(平成11年10月現在)、利用定員は8千人以下と少ない。そのうち医療法人の設置によるものの46%(入所施設は63%)であり、病院の延長線上にあるともいえる歪みが存在するのである。
とくに精神障害者「地域生活支援センター」153カ所のうち、60カ所が医療法人によるものであるというに至っては、唖然とする。人口が概ね30万人に2カ所配置して、地域での自立生活ができるよう支援する事業を行う性格のものである。本来は福祉圏域(複数市町村域)に計画的に配置して、公的責任で実施すべきと思える事業である。国はこのような認定を取り消して、税が正しく使用されるよう改めなければならない。世界的潮流への逆行。民間への依存。そのしわ寄せがこの国の精神障害者施策を縛っており、その最大の被害者は精神障害者なのである。