<時評>しっかり対応しなければ倒産もある
『コロニーとうきょう105号』1997年07月
当法人が新しい試み(身体障害者、知的障害者、精神障害者の通所授産の合築)として建設した青葉ワークセンターは、平成2年と平成5年に、第一期および第二期に分けて建設を行いましたが、その費用総額は土地取得費を含めて約12億円であり、うち法人負担分は5億5千万円以上の高額になりました。
そのうえ、バブル崩壊後の急速な経済環境の悪化で、法人の主要な業種である印刷事業の経営が悪化して、昨年度までに4つの社会就労施設と一つの福祉工場で、合わせて5億円を越える赤字を計上し、ここにきてようやく赤字に歯止めがかかりはじめたという状況であります。
このため、当法人は従来の長期・短期資金に加えて、10億円を超える資金の調達を必要としたのであります。法人の年間予算が110億円余という規模ではあっても、これは大変きびしいことであります。
社会福祉法人は無謀な施設建設を行わない限り、事業運営で欠損金を出して経営危機を招くというようなことはまずありません。社会就労施設の多くは事業収入の範囲で工賃等を支払っているため赤字は出ません。仮にこの年度に赤字でも次年度に調整するなどの方法をとることによって、その欠損処理を行うため、赤字が累積するということはほとんどありません。
しかし、当法人の場合は、印刷事業に働く利用者の工賃は、賞与を含めて月額平均が10万円を超えています。また、施設入所者には住宅手当を支払って通所に移行する奨励策をとっています。その結果、入所が減って、通所が増える結果となり、経費も増えて、委託収入が減り、事務費会計は常に赤字であります。
出来高払いの考え方は、ある時期に放棄し、必要な売上高と加工高を確保するのは経営者の責任である、ということに徹した経営方針を貫いてきたのであります。
全国的には固定工賃を支払っているところも相当ありますが、その大部分は出来高制の範囲のものとみられています。受注や生産高の変動を、工賃の額に連動させて整合させているところが多いのです。
したがって赤字が累積して倒産の危機に直面するというようなことには、当然なりません。低い工賃を設定し、その工賃でさえ、売上げが落ちれば減額するなどして帳尻を合わせるというような経営がたいへん多いのです。
こういう安易な経営を続けていて、利用者の処遇を改善することができるでしょうか。 当法人が新しく開設した青葉ワークセンターは、平成3年度から就労した利用者の場合、工賃は最低賃金の3分の1(3万円強)をようやくクリアしましたが、ここも出来高制の考え方ではありません。今後は、最低賃金の少なくとも2分の1の水準をめざしたいと考えています。青葉ワークセンターは身体障害、知的障害、精神障害という障害の種別をこえて、個々人の職業適性を生かせる仕事に就けるよう努めています。
機械に稼がせる仕掛けをつくることも必要です。機械化を進めるためには仕事量の確保が不可欠です。生産性を高めるためには、要所要所に非障害者を配置することも大切な手法です。
以上のような処遇方針のもとに、営業活動や生産体制を整備してこそ、生活に資する工賃収入を保障することが可能になるという認識にそって、当法人は実践しています。
しかし、こうした経営方針は、中小企業と同じであって、経営を誤れば倒産に直結します。バブルの崩壊期のような、大きい経済変動に敏速に対応できる能力をもっていなければ、当法人の印刷事業のように、赤字経営に転落し、倒産の危機に晒されることになります。
当法人はいま、これを乗り越えられるかどうかという瀬戸際にあり、克服への条件がようやく整いはじめたか、という段階です。
わが国の社会就労事業を、ここに述べたようなきびしさを自らに課して取組んでいく、元気な仲間が集まったらと思いますが、手をあげてくださる方がありますか。