社会福祉基礎構造改革と知的障害者福祉
『AIGO』2000年02月
“完全参加と平等”とか“ノーマライゼーション”を、普通の日本語に直すとどういう意味の言葉になるのか、本誌の読者なら誰でもご存知のはずであると私は認識しています。
今日の課題は、ごくあたりまえのことですが、この理念をどう具体的に実現するかであります。すでにいくつかの実践モデルが生まれていますが、それはごく一部であり、あたりまえのことが進んでいません。
昨年の12月、私は、マレーシアのペナンを訪問して、現地で知的障害児・者の福祉事業を実践している元障害福祉専門官の中澤健氏の仕事を見聞してきました。彼は公的支援のない中で道を拓きつつあります。その中澤氏が専門官のときの障害福祉課長・浅野史郎氏とはよいコンビで、「親亡きあとという言葉はもう死語にしよう」と強調していましたが、その発想の中からグループホームの制度が生まれたことはご承知のとおりです。
しかしその後はあ、知的障害者が親や家族に依存しないで、地域自立を可能にする新しい施策はほとんど進んでいません。障害者プランもそこが抜け落ちています。
今回の社会福祉基礎構造改革においても、理念はたいへんすばらしいのです。すなわち「個人が尊厳をもって、その人らしい生活が送れるよう支える社会福祉」を実現するためとしています。
しかし、そのための具体策をみると、幹となる部分の施策には手をつけられておらず、枝葉の問題に重点がおかれています。措置制度を利用制度に変えることにより、利用者の選択性・対等性を高める。また、サービスの内容の公開、苦情処理、地域福祉、権利擁護などの制度化により、利用者本位の福祉を構築することとしていますが、これらの施策が知的障害者の生活向上にどれだけのプラス効果があるかは甚だ疑問です。
措置制度のもとでも現実に選択はあったし、数(量)さえあれば選択は可能です。また、行政処分が問題のように言われますが、利用先や自己負担額、補助額等の決定は、これまでの福祉事務所から市町村に変わっただけです。情報公開や苦情処理、権利擁護などの制度は措置制度のもとでも、できないこととは思えません。知的障害者福祉等の市町村委譲とかデイサービス事業などの法定化は、身体障害者福祉法とともに改正される知的障害者福祉法の改正にともなう一般的施策であって、基礎構造改革と連動する性質のものではありません。ただ評価できる点がないわけではありません。それは通所授産施設における定員を、20名から10名に引下げ、社会福祉法人の認可基準を緩和するほか、通所授産については、施設の賃借を認めることにしたことです。5,200か所をこえた無認可作業所を法定化し、運営費を引上げることは、利用者の選択の幅を広げる効果をもたらすでしょう。地域福祉計画の法定化とともに評価できると思います。