重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.5 1995.6(平成7年)

障害のある方の在宅勤務実施企業 インタビュー
私、在宅勤務しています!
平成7年度在宅パソコン講習生を迎えて
ONE・STEP企画のコーナー

障害のある方の在宅勤務実施企業
インタビュー

 (株)SRAは、2年前から障害のある方の在宅勤務を試験的に実施しています。

 社内では今も在宅勤務「できる派」「うまくいかない派」に分かれているとのことですが、 「できる派」のSRA技術センター技術部プロジェクト推進グループ教育担当山口圭一さんに在宅勤務試験実施の状況についてお話を伺いました。


(株)SRA 会社概要 
設  立/1967年11月20日 資 本 金/264,020万円
従業員数/1,150人 本社所在地/東京都
業務内容/システム開発等  

在宅勤務者 Aさんのプロフィール

    性別   /男 
    年令   /45才 
    障害状況/筋萎縮による四肢機能障害1種2級 千葉県在住


Q 1:在宅勤務を現在試験実施しているとのことですが、実施のきっかけは何ですか?
山口:
在宅勤務が「できる」という人と「うまくいかない」という人が社内に昔からいまして、ずっと変わらない状況です。 これは、部門によるということではなく個人の価値観とか仕事のスタイルの問題でしょう。 「うまくいかない派」はまだ多いのですが、「試験」ということで実施に踏み切りました。

Q 2:仕事のスタイルの問題といいますと?
山口:
今までの日本の仕事のやり方は「門前の小僧習わぬ経を読む」といったふうで側にいて仕事を覚えていくやり方です。 離れた場所で技術的なノウハウをやりとりしながら仕事を進めていくという仕事のスタイルに慣れていないんですね。

Q 3:在宅勤務者にはどのような問題がありますか?
山口:
これがまた難しいんです。いろいろなタイプの人がいますから……。
顔をつきあわせて仕事をしている場合は五感を通して相手の様子が伝わってきますが、在宅勤務の場合には電子メールとして表された文字或いは電話の声だけなので伝えられる情報は激減します。 これを補うには、より一層自分からコミュニケーションをはかろうとする姿勢が現れないとなかなかうまくいきません。 人との付き合いで気にしやすく、閉じ込もりがちな人は在宅勤務の場合、余計孤立しがちです。 技術的な適性はペーパーテストである程度判断できますが、実際にはヒューマンパワー(個人の姿勢や資質)の問題の方が大きな要素です。

Q 4:現在の在宅勤務者(Aさん)はどのような業務をなさっていますか?
山口:
社内のシステムを担当してもらっています。 仕事のやり方については、メールで指示をし業務報告もメールで行っています。 これについても報告をきちんとしながら自ら仕事を進めていく能力が求められますね。 積極的に、仕事を発注しているセクションとやりとりする姿勢も必要です。

Q 5:研修はどのような形で行いましたか?
山口:
ある程度プログラム経験がある人でしたので、初めから在宅で仕事をしてもらいました。 週に1回程度出社してもらい、打ち合わせを行いました。

Q 6:在宅勤務者のための担当者は配置しておられますか?
山口:
現在は私です。私の方で仕事を準備して指示をします。 社内の仕事を発注するセクションとつなぎ、そのあとは直接やりとりしてもらっています。

Q 7:在宅勤務者が自宅で使用するマシンは?
山口:
ごく最近では、DOS/Vマシンの最新機種です。

Q 8:在宅勤務者が「孤独」を感じやすいといったことに対して貴社ではどのようにされていますか?
山口:
そのようなことがないように、行事など福利厚生に関することも含め会社の情報は電子メールで全て流すようにしています。 仕事に関しても自分で積極的に発注セクションとのやりとりをしていくように指示しています。

Q 9:在宅勤務の一番のよい点は何ですか?
山口:
通勤時間がないということが一番です。私は、障害の有無にかかわらず在宅勤務の実施に賛成です。

Q10:「在宅勤務」に対する展望は?
山口:
個人の価値観に関する問題と、新しい時代の流れに対応していくということですから、時間がかかると思いますよ。 アメリカなどは広大な土地で離れて技術のやりとりをしながら仕事をしていくのがふつうになっていますが、日本人は離れて仕事をするのになれていない...  住宅事情もありますが、集まって顔を突き合わせて仕事をするスタイルができていますから、それを変えていくのは非常にたいへんです。 在宅勤務はメリットが多い」と多くの人が体験して実感しないとだめですね。

Q11:雇用率についてはいかがでしょう?
山口:
雇用率の問題とは関係なく、採用に対して積極的に取り組んでいくという姿勢は変わっていません。 実際にも雇用率について言えば随分上がってきています。 できる人であれば今後も採用していきます。 この業界は技術の進歩が早いですから、新しい技術をあるスピードで吸収していける人でないと、第一線のエンジニアは務まらないと思います。
★  ☆  ★

お忙しい中、笑顔で丁寧にお話下さった山口さん。「日本の仕事のスタイル」を変えていくのは並み大抵のことではないかもしれません。 でも、勤務者側にそれをおぎなうヒューマンパワーがあれば、在宅勤務も可能になる、という力強い示唆を与えられたインタビューでした。


   とらの直撃インタビュー《Part 3》
私、在宅勤務しています!
(株)九州微生物研究所:吉村 隆樹氏

 今回は、九州は佐世保市で在宅勤務プログラマーとして活躍中の吉村さんにパソコン通信でいろいろと話を伺いました。

 吉村さんは今年30才。脳性麻痺による1種1級の上下肢障害があります。 仏教大学社会福祉通信コース卒業後、昭和63年、現在の会社に採用されました。

 採用の決定をした九州微生物研究所は、医療検査会社で、グループ全体で約160名の従業員をかかえ、数々の検査業務を精力的に手がけています。


Q1:現在の会社に就職した直接のきっかけは何ですか?
吉村:
QSDという自作の入力補助ソフトをパソコン通信で無料配布したのがきっかけで、同じ通信の会員だった今の会社の人と知り合い、誘いを受けました。

Q2:現在の業務内容はどのようなものですか?
吉村:
プログラミングです。 病院関係なので、検査結果の報告書を発行するものや、検査機械からのデータのオンライン処理等をよく手がけます。

Q3:どのような勤務の形ですか?
吉村:
週に一日出社し、仕事の報告や、細かい打ち合わせ、今後の予定を相談します。 仕事の受け渡しはパソコン通信、具体的な指示は電話、FAXですが、必要があれば、週に何度でも出社します。

Q4:雇用における身分、賃金、雇用保険などはどうなっているのですか
吉村:
正社員であり、賃金は日給月給制です。また雇用保険の適用になっています。

Q5:通勤が不要ということ以外で、在宅勤務の”一番のメリット”は何ですか?
吉村:
自分の家なのでトイレなど全く心配しないでいいわけですから、仕事に集中できるということです。

Q6:在宅勤務のデメリット、またその攻略法があればお聞かせ下さい
吉村:
できるだけ行事等には参加していますが、もう少し会社の人達とコミュニケーションがとれたらと思います。  また、熱中すると家では時間を忘れてしまいがちですね。 でも、その日の最初に”今日はここまで”と計画をたてておくことで大体回避できます。 一人の作業ですから、孤独を感じたりいきづまったりすることもあります。 そういう時は、ちょっとパソコン通信を覗いたりしています。 良い気分転換になるみたいで、覗いた後仕事に戻るとあっさり解決!ということがよくあります。

Q7:新しい技術の習得はどのように行いますか?
吉村:
定期購読している雑誌や、パソコン通信で得られる情報も大きなウェイトを占めます。 また、会社から技術講習会に行かせて戴くこともあります。

Q8:現在の勤務内容、勤務形態について要望はありますか?
吉村:
今の所ありません。 健康管理のため、勤務の後運動場に行くのですが、冬場などは日が短いので勤務時間を変えて戴いたりと、柔軟に対応してもらっています。 また、絶対に間違いが許されない病院関係の仕事ですから、時々無性に不安になることがありますが、上司とはそういう話もよくできますので助かっています
★  ☆  ★

 パソコン通信というものが吉村さんの人生の転機に大きく関わりなおかつ現在は大事な仕事のサポータ役になっていることがわかります。

 また7年間の吉村さんのプログラマーとしての活躍が会社の援護育成体制の上になりたっているということも、このインタビューからくみ取れました。 吉村さんは現在仕事以外でもパソコン通信で活躍なさっており、PC-VANで自分史を連載中です。

 吉村さん、これからも在宅勤務の先駆者として頑張って下さい。

  
平成7年度在宅パソコン講習生を迎えて
 去る4月3日月曜日、平成7年度第13期生の在宅パソコン講習開始にあたってのオリエンテーションを実施しました。

 新年度の講習生は5名(「板橋区 20才 CP1種1級」「江東区 26才 頚損1種1級」「豊島区24才 頚損1種1級」「羽村市 23才 疾患1種1級」「町田市 23才 CP1種2級」)です。 また、在宅講習及び在宅就労の研究をより充実していくために、今年度から新しく職員を1名増員しました。

 更に通産省の情報処理技術者試験の見直しを受けて、本講習内容も新カリキュラムで4月からスタートしました。 あまりのテキストの量の多さに講師を始め新講習生も圧倒されつつも、着実なスタートを切りました。

 2年後の成長を今から楽しみにしています。


トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 養護学校用教育ソフトの開発プロジェクトをスタート! 

 「ONE・STEP企画」では、発足当初から養護学校の後輩のための教育ソフト開発に取り組んできました。 これまでに、キーボードからの入力により画面にいろいろな花火を打ち上げることができる花火Ver1.1を開発しました。 このソフトについては、養護学校の先生はじめ関係者の方々から高い評価をいただき、約50本を販売しています。

 今年度は、新たにWindows上で動く教育ソフトを開発するプロジェクトを発足しました。 大手メーカーのSEの方がボランティアでアドバイザーとして加わって下さり、開発メンバー3名が在宅でシステム開発に取り組み始めています。 Windowsの特徴をいかした楽しいソフトを作っていこうと、来年1月完成に向け、一同気合いを入れて頑張っています。

 完成した教育ソフトは、本紙上で紹介させて戴きますので、どうぞ、お楽しみに!



編 集 後 記

 マルチメディア、インターネットと新技術がもてはやされ、世間では雨後の竹の子のように各メディアが関連物を出しています。 気がついてみたら、私の前にも似たような雑誌が何冊も。

 しかし、こういうものは「概要をつかめれば」などと構えたら雲をつかむようなもの。 「絶対これがやりたいの!」、「だってこういうメリットが欲しいんだもん!」、「嘘ついたら許さないわよ」とあくまでしたたかに、自分中心に、そいつらをはべらせ、かしづかせるのがどうやら早道のようです。
何冊も読んで、それだけが明確にわかりました。

 私は、在宅就労につながる可能性を探して、しばらくこいつらをはべらせてみようと考えています!

(M)    


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