■障害のある人の在宅雇用事例
株式会社シーイーシー 中村拓人さん
「やらせてもらえることは何でもやってみればいい」
Vol.59
CONTENTS 2013.7(平成25年)
さる6月19日、「障害者差別解消法」が、参議院本会議にて全会一致で可決・成立しました。この法律は、国連の障害者権利条約の批准に向けて、障害を理由とした差別の解消を進めるための国内法として整備されたものです。国や地方自治体に対し必要な施策を実施することを義務づけているほか、国民に対しても差別解消が進むよう努めることを求めています。効力面や差別の定義については今後に課題はありますが、平等な社会への第一歩という期待も高まっています。
さて、教育や就労の分野で差別解消を考える時、設備のバリアフリー化などとともに、読み書きやコミュニケーションの保障は大事な「環境整備」と言えましょう。わたくしどもで実施している「東京都障害者IT地域支援センター」には、この10年間、たくさんのヘルプが学校や会社から聞こえてきましたが、とりわけ昨今は、新しい技術で解決できることが増えてきました、少しご紹介いたしましょう。
○聴覚障害の社員の会議参加
会議の発言者は、iPad等のタブレットに無線接続されているマイクで話す。音声認識を経て発言は文字化されるので、聴こえない社員はタブレットの画面で他者の発言を読むことができる。
○発達障害の生徒のグループ課題参加
作業手順を間違わないよう、スマートフォンに作業チェックアプリを入れる。写真をみて自分で洩れなくチェックでき、何時にその作業を終了したかが見直せる。
○高次脳機能障害の社員の作業習得
軽作業の習得のためにお手本となる作業をタブレットで動画で撮る。それをもとに練習をすると、忘れても何度でも自分で見直せるので自分のペースが作れる。
これらは、社会参加を支える技術を、教育や就労の現場で個別に取り入れた事例ですが、まだまだこのような積極的な活用は少数です。「障害者権利条約」でうたわれている「合理的配慮」は、過度の負担がない限り実施されなければなりませんが、これらの例は全て無償のアプリで実現可能ですから、間違いなく合理的な調整と言えるでしょう。差別の排除や環境調整の実施にテクノロジーが一定の力を持つならば、それは誰にとっても現実的でクールな解決策。支援技術を広げていくミッションが、我々にも課せられています。
(堀込)
中村拓人さん
(頸椎損傷 1種1級)
(在宅パソコン講習2008年修了生)
株式会社シーイーシー 管理本部労務部 所属
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障害は頸髄損傷です。若い頃友人と海で遊んでいて飛び込んだら、岩場に頭から突っ込んじゃって。痛みはなくて「ドーン」という感じでした。意識は失うことなく、うつぶせで浮かんでるところを友人に助けられましたが、首から下は動かせませんでした。
その後、神奈川リハビリテーションセンターでリハビリをしたあと、東京コロニーで2年間情報処理を学び、まずは事故の前に努めていた工務店に復職しました。
工務店では防水工をやっていました。屋上とかベランダの防水工事ですね。1年弱でしたけど気に入った仕事でした。受傷してからは同じ仕事はできませんでしたから、復職後は事務職になりました。3年やりましたが、会社が規模をスリム化した関係で退職し、その後、今の会社に在宅勤務でお世話になっています。
業務の中心は社内報の電子書籍化です。最近、タブレットやスマホで、iBooksなどのアプリを使って本を読めますよね。社内報をそういうもので読めるように、電子書籍化用の自社のオーサリングツール「Tigris Plus(ティグリス プラス)」で紙面編集しています。サファリやグーグルクロームといったブラウザを使ってWEB上で制作できますので便利ですよ。
進捗は、企画部のスタッフに意見をメールでもらいながら修正していきます。ダメ出しを2,3回もらって完成するんですが、できた時は嬉しいですね。
専門の勉強はしていません。就職前に東京コロニーの短期のWEB講座を受けたくらいでしょうか。その講座はWEBページについての学習ですから今の仕事にドンピシャなものではありませんが、全体のレイアウトなどを考える折には役立っています。勉強ってなんでもしておくものですね。
日々の連絡はメールかLync(リンク:Microsoft社の企業用統合コミュニケーションツール)です。送信する時は割と考えて送りますねー。
伝えたいことをどれだけ正確に届けられるか。何度か読み直し、なるべくニュアンスが伝わるように努めます。でもややこしいときは電話がいいですね。あと、月に1,2回は、上司や作業のコーディネーターが色々理由をつけて家に来てくれます(笑)。助かります。
電子書籍を作る上で、表紙などはもっと色々なデザインができるようになりたいです。レイアウトの参考書を読んだり雑誌の表紙などを積極的に見ていますが、会社からも「参考にしたら?」と、その種の本を送ってくれたりします。
誌面は余白やフォントなどの設定を調整しながら企画部と決めていくのですが、毎回手さぐり状態。少しでも効率を上げられるよう、現在それらを「制作ガイド」にまとめているところです。
会社へ行かない働き方ですから、当たり前ですが、まず自分に対して厳しくないと。頑張るのもさぼるのも自分次第。そしてそれはきっちり結果で返ってきます。
あと、在宅の障害者雇用はまだまだ少ないですから、最初から自分がやりたいことができるかどうかはわかりません。希望のもの以外でも、自分にやらせてもらえることがあれば何でもやってみてはどうでしょう。楽しいことはそこから見つかるかもしれません。
僕もそうですよ、現在の仕事は以前には想像したことのない業務ですが、電子書籍を作ることが今はとても面白い。人に見てもらえるのだから、いいものを作っていきたいですね。
就職前のご自宅訪問ではヨチヨチだったご子息もすでに2才半。拓人さんもすっかり優しいパパのお顔でした。工務店業務がもともと天職だった拓人さんですが、余儀なく転換したIT業務も難なくこなしておられます。「作りあげる」という点では、今の電子書籍制作は以前のお仕事と共通する点があるのかも。細かく心配りを下さる会社の方や暖かいご家族に囲まれて、これからも益々成長なさることでょう。
プラレール楽しかったです、また遊びに行かせて下さいね!
(堀込)
――「過去のメルマガWEB検索システム!」
私共が実施している「IT技術者在宅養成講座」の第29期生が、今春2年間の課程を修了致しました。この講座の最後の大仕事(?)が、卒業制作に相当する「グループワーク」です。このグループワークは模擬的な受託案件の形式で行われるもので、受講生の一人がリーダーとなって在宅で学ぶ他のメンバーと連携を取りながら、クライアントへの納品物を作成します。クライアントとの調整もリーダーの役目となり、講師陣はあくまでも技術的なサポート等の後方支援にまわります。
今年度のお題は、IT地域支援センターが定期的に発行しているメールマガジン『東京itc通信』のバックナンバーを検索するシステム開発といたしました。アプリケーションコースを選択した受講生によるページデザインと、プログラマーコースを選択した受講生の検索プログラムがミックスし、実用性も兼ね備えた素晴らしいシステムが出来上がりました。
本システムは、現在試験的にIT地域支援センター本サイトに設置されており、間もなく本公開の予定です。公開の折には、同じくグループワークの中で作成した広報用のパンフレットを、IT地域支援センターにて配布させて頂きますので、お越し頂きました際には是非お手に取ってご覧ください。
(山崎)
タブレットを、スイッチやマウスで操作できます!
Android OS用 スマートフォン−PC
ミラーリングケーブル(上)
できiPad(下)
今号では、タブレットのタッチ操作が苦手で、興味はあるけれど利用を敬遠されている方に、スイッチやマウスでの操作が可能となる機器を2つご紹介します。
まずスイッチ操作を叶えるのが、スイッチインターフェイス「できiPad。」。普段お使いのスイッチを接続し、長短押しを組み合わせることで、iPadやiPhoneなどiOS製品のアプリをスキャン操作することができます。長押しが苦手な方はスイッチを2個使えば短押しのみでの操作が可能に。他にトーキングエイドモード、ジョイスティックを使用したモードなど、お使いの方に合わせた設定があります。
また、パソコンのマウス操作が得意な方には、Android OS用 スマートフォン−PC ミラーリングケーブルはいかがでしょう。Android端末をパソコン画面に映し出し、アプリの利用はもちろん、電話やメールもパソコンの画面の中でマウスで操作することができます。
興味ある方は当センターでお試しいただけますので、ご予約のうえお気軽にお越しくださいませ。
(今津)
●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
電話 03-6682-6308 FAX 03-6686-1277
去る6月7日、「IT技術者在宅養成講座」の第30期生の皆さんと共に、江東区新木場にあるNECソフト株式会社様(以下、NECソフト様)の本社を見学させて頂きました。本活動は2004年から実施しており、今回で10回目となります。
見学会では、会社の紹介や人事総務部門の方の貴重なお話の他、NECソフト様の在宅勤務の方の仕事の様子を、ご自身の環境やそこに至るまでの課程もあわせてお聞かせ頂きました。また、聴覚障害を持つ社員の方が、社員間のコミュニケーションを円滑に取るべく工夫しながら、周囲の方々のご協力を得てご自身の力を十分に発揮されている姿もお伺い出来、受講生たちは、就労への意欲を一層掻き立てられたようです。
その他、研究開発チームのユーモアある研究成果や、厳重なセキュリティ設備に守られたサーバ室など、到底目にすることが出来ないようなIT企業の最先端をお見せ頂くなど、IT技術者を目指す講習生達にとっては、非常に貴重なプログラムをご用意頂きました。
NECソフト様では、今回のような会社見学の開催の他、各種の社会貢献事業も積極的に取り組んでおられ、東日本大震災の復興支援や国際協力など多方面にわたって企業の社会的責任(=CSR)を果たしておられます。
会社見学会は、このCSR推進部の皆様のご尽力により毎年実施して頂いておりますが、毎回素晴らしい内容をご用意して下さり、この場を借りて深く御礼申し上げます。
(山崎)
◆株式会社沖ワークウェルにて在宅勤務決定 |
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T.A さん 脊髄損傷 1種1級 (短期講座2011年修了) |
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◆マイクロソフトオフィススペシャリストExcel合格
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本年もJDFいわて支援センターへ支援活動として伺う事が決まりました。そして、今回のトライアングルの記事を作成している今まさに陸前高田市にて活動中です。前回の支援活動からわずか半年ですが、目に見えて復興は進んでおりました。次回のトライアングルにて、その様子を報告出来たらと思います。
(山崎)