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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.58 
CONTENTS 2013.3(平成25年)

■障害者優先調達推進法のスタート

■障害のある人の在宅雇用事例
 金子さん「在宅勤務で育児しています」

■JDFいわて支援センターに派遣されて

■シリーズ第20回 東京都障害者IT地域支援センター便り
 センターで現在最も多いご相談「タブレットってほんとに便利?」

■テレワーク実習に参加して

■おめでとう

 国や地方公共団体が、率先して障害者就労施設などに物品や仕事を発注するよう、必要な措置を講じることを定めた法律が、この4月から施行されるのをご存じですか?その名は「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律(障害者優先調達推進法)」。思わず読み返してしまう長いタイトルです。

 具体的には、まず、国が就労施設などからの物品調達の基本方針を定め、それに則して各省各庁、独立行政法人、地方公共団体(都道府県、市町村)も、毎年度方針を作成するとともにその実績を公表する、というもの。ここで「障害者就労施設等」と言っているのは、発注の対象が「施設」だけでなく、在宅就業障害者や在宅就業支援団体も含まれることによります(在宅就業支援団体に対する「雇用促進法」以外の支援策は初)。

 厚労省のパンフレットを見ると、物品購入以外の発注例には、役務(サービス)として、<クリーニング><清掃><印刷><データ入力><包装・組立><発送>などが挙げられており、在宅就業者が比較的得意とする「IT関連」も、当然対象になると考えられます。また、同時に在宅就業支援団体は、発注者と作業者の仲介窓口として核となっており、パンフレットにも全国19の支援団体名が明記されています。

 現在のところ、在宅就業支援団体は1つの自治体に多くは存在していないため、団体同士の競合はさほど心配なさそうですが、せっかく発注を打診されても、未経験の仕事や新しい技術などに二の足を踏んでしまうことはありそうです。しかし、在宅就業はそもそも離れた所でのネットワーク作業ですから、例えば受注に必要な技能を持っている他の団体と組んで、その一部を担当してもらったり、技術指導を依頼することは難しいことではないでしょう。そういう観点から見ると、発注促進のこの策は、障害のある人の経済面の自立を進めるためだけでなく、職業訓練の材料やしくみの確保という大きな役目もあると思えます。

(堀込)

厚労省のパンフレットより(優先調達推進法関係のページ)
厚労省のパンフレット

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金子真祈子さん
(多発性硬化症<下肢障害、視覚障害>1種1級)
(職業紹介事業2008年登録)

B株式会社(IT関連会社) 総務部所属
仕事開始時期
2008年8月
労働形態
在宅雇用(契約社員)
就業時間
9:00〜17:00
仕事内容
リサ―チ業務
IT関連の情報収集業務
出  社
不定期
就労場所
自宅

Q:ご自身の障害と、在宅勤務になったいきさつについて

 障害は多発性硬化症です。上下肢のしびれがあり、移動が困難です。また、視力がなく、障害者手帳で言いますと、肢体不自由と視覚障害、それぞれ1級です。以前は通勤でしたが、体調に波が出てラッシュが辛くなりました。自分のペースで働きたいと思い、ネットで東京コロニーを見つけて問い合わせました。その時点ではパソコンスキルがありませんでしたから、必要なIT技術を身に着けるようアドバイスされ、視覚障害者の支援機関でまず研修を受け、その後の就職となりました。

Q:障害を補助するソフトやハードについて

 特別なソフトウェアとしては、PCトーカーなどの音声ソフト※1を利用しております。入社時に会社が買ってくれました。これによって、パソコンの情報は全て音声で聞いて作業できますし、紙に印刷されている文字も、スキャナーで読み取ってパソコンから音で聞けます。エクセルやワードも音声でできるんですよ。

※1 画面上の情報を音声で読み上げるソフトウェア
文中のソフトウェアは株式会社高知システム開発の製品

Q:在宅での業務内容について

 IT関連の情報収集に携わっています。例えば、ヤフーのIT関連の記事などから、会社にとって必要なものを取ってきてエクセルでまとめます。 ネットのリサーチも全て音声読み上げを聞いて行うのですが、当初はページの全文を聞いてました。慣れたら項目だけ聞いて必要度がわかるようになりましたから、少しずつ能率アップしてますね。

 最初はパソコンの電気音声で頭が痛くなりましたし、「クラウド」など聞きなれない新しい技術用語が次々と出てくるのが大変でした。でもそこは忍耐と慣れ。初めて聞く単語は、これもネットで調べて理解するように心がけました

Q:セキュリティとコミュニケーションについて

 パソコンのセキュリティはソニックウォールというシステムを使い、これをONにしてメールなどは送ります。また、マカフィーも利用していますが、こうしたソフトは細かい更新が必須です。確実に実施したことを報告するため、会社の情報管理部には、更新画面を送ります。

 会社とのコミュニケーションはメールが中心です。孤独では?と思われる方もあるかもしれませんが、耳で仕事していますから、一人の環境のほうが断然効率があがります。でも、作業開始のメール等ではたわいもないことを書きあいますよ。楽しいです。

Q:在宅勤務をする上で気をつけていること

  在宅勤務は、時間の使い分けが自由になりやすい分、生活との切離しは気を使います。公私混同はしない。始めた時から強く自分で心がけています。例えば、体調悪いときは「休みます」と申し出ますし、当たり前ですが、娘が熱を出すと、会社に電話してから迎えに行きます。

 娘は保育園にいっていまして、送り出してしまえば静かになる(笑)。そこからは仕事の時間、仕事モードに入ります!

Q:お子さんができた時の決断、在宅勤務のメリット

 在宅なので同僚と毎日顔をあわせてないこともあり、出産休暇の申請をする際はちょっと気が引けるところもありました。が、意を決して会社に言ったら、「おめでとう!」「病院のこととか困ることあったら言ってね!」とすぐに対応してくれました。通勤が無い分、朝夕の娘といる時間もたくさん取れ、在宅勤務の強みを感じています。娘の語彙は爆発的に増えてます(笑)。

Q:お子さんができる前と後での仕事感の違い

 娘ができる前は何となく「自分は社会に必要とされているのかな」という葛藤がありました。仕事をすることで社会の一員になれるような気がして、そのために働いていたかもしれません。でも今は、娘に働く姿を見せることで自分も成長していると感じます。いただく給料で、娘に習い事もさせたりできますし(笑)。

Q:現仕事の面白みは?、また今後の課題や夢は?

 ITの最新ニュースを毎日リサーチしていると、誰よりもいち早く「プレステ発売」とか「MS Officeのバージョンアップ」とかわかるのは気持ちいいですね(笑)。私の収集した情報は担当が編集して社員へ配信されているのですが、「いいニュースをありがとう」と言われると、「お役にたってるかな」と嬉しくなります。


 今後の夢は、娘が大きくなっても働き続けること。いつかは母の障害がわかって色々言われたりするだろうし葛藤もあるだろうけど、働く姿を見せて、「普通に働けるよ」「普通の人と同じなんだよ」っていうのを見せたいですね。もちろん自分も働くことによって多くを得ます。働けるならずっと働きたいです!

インタビューを終えて:

 音声読み上げでパソコンを操作して、在宅勤務をしながら小さいお子さんを育てている! 傍から見たらすごいスーパーウーマンなのですが、ご本人は力みもなく、いたって普通に、ご家族との毎日を素敵に過ごしておられます。可能にしているのは、金子さんの意志の強さや聡明さであるのはもちろんですが、ITによる情報保障の力や、ネットワークがもたらす労働形態も後押しをしていると言えるでしょう。技術がこれからも第二第三の金子さんをどんどん輩出できますよう、我々も陰ながらご協力できたら幸いです!

(堀込)

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県立高田病院
県立高田病院

 去る2012年11月に日本障害フォーラム(JDF)が岩手県陸前高田市に開設している「JDF岩手支援センター」へ伺いました。こちらのセンターは、陸前高田市と協力し、被災地の障害をお持ちの方を中心とした地域の総合的な支援活動を行っております。

 私はこのセンターに1週間滞在し、利用者の方々の送迎を中心にご協力させて頂きました。特別支援学校の通学や、障害をお持ちの方・ご高齢の方の通院等、震災によって絶たれてしまった地域コミュニティーの代替策として、JDFが平成26年3月まで継続して行う予定です。

 陸前高田市は津波の被害が尋常では無く、現在でも瓦礫の撤去が主な復興作業で、まだまだ新たな施設建築には至っておりません。市役所や市の総合病院などは、山間に建てられたプレハブの仮設施設で代替しています。障害者やご老人の方への支援の手は、古くから地域の住民コミュニティーによって支えられておりましたが、震災による直接の被害の他、避難などにより周辺環境が一変し、家族や知人を頼ることも困難になってしまいました。ある仮設住宅にお住いのご老人を大船渡市にある総合病院までお連れする際、「前は息子が連れてってくれたんだけど、避難所も仮設住宅もバラバラになっちゃってね…」と話されていたのが、とても心に残っております。

 被災地の再建には、地域経済の立て直しも重要な課題となってきます。日本経済の好転傾向などここのところの少し明るいニュースは、復興にも追い風となるでしょう。ごく最近では、関東や関西に拠点を置く事業所が、被災地の活性化にと被災者の方々に優先的にテレワーク業務を委託するケースも増えてきております。テレワークという働き方が、通勤が困難な方の就労スタイルの一つであるだけでなく、経済の一極集中の分散や、災害発生時の事業継続にも確実に一役買えることが実証できたように思います。

(山崎)

Jdfいわて支援センターのfacebook

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障害者IT地域支援センター
障害者IT地域支援センター

 当センターは開館以来8年間、情報利活用に役立つ様々なIT機器やソフトをご案内してきましたが、ここ1〜2年最も多く寄せられるご相談は、タブレット端末やスマートフォンに関するものです。この誌面でも度々ご紹介しておりますが、当センターでは、iPad、Android端末を取り揃えるだけでなく、便利なアプリの多数ご紹介や、お役立ちグッズも展示しています。

 例えば、タブレットを手で持つ際のずり落ちを防止できる「バンカーリング」。首かけをはずさなくてもよい「のびぃ〜るストラップ」。ホームボタンの上に貼るだけで押しやすくなるシールなどなど。アナログでシンプルなものばかりですが、これが意外にデジタルの使いやすさを何倍にも押し上げます。

 「こんなに便利に使えるんだ!」と思わず笑顔になれるアプリや使い方を探しに、是非センターにご来館下さいね。ホームページで事前に展示物や開館時間もご確認いただけると幸いです。

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
電話 03-6682-6308  FAX 03-6686-1277

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テレワーク体験実習
実習風景

  2月7日に東京都立光明特別支援学校で行われた「テレワーク体験実習」を見学させて頂きました。参加者は都内の特別支援学校に通う中学〜高校生。将来の日本を背負う若者たちです。

 参加者のみなさんは、インターネットを利用したデータ入力システムを使用して作業を行い、就労場所を限定しない働き方を体験しました。

 慣れない作業に四苦八苦しながらも、生徒さん達には【働く】という事の重要性と、テレワークという働き方による自身の可能性、そしてそれを可能にした今日のテクノロジーを感じ取って頂けたのではないでしょうか。

 テレワークの職種はデータ入力以外に一般事務作業からWeb制作等のクリエイティブなものまで多岐に広がっていますが、今回実習に参加された生徒さん達が社会に出る頃には、さらに多くの業種・職種において実現していると思われます。

 私ども職能開発室では、通勤・通学が困難な重度身体障害をお持ちの方を対象として2年間の講座と半年の講座を準備しておりますが、在宅就労への足掛かりとして特別支援学校の卒業生の方々にも多数受講して頂いており、その8割が何らかの形での就労へと結びついております。

(山崎)

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◆ITパスポート試験 合格
 H.T さん 疾患 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

H.Tさん
   
 M.K さん 変形性関節症 2種3級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
M.Kさん


編 集 後 記

 このたび、「東京都障害者IT地域支援センター便り」を担当することになりました今津葉子と申します。茗荷谷に移転して約1年。“借りてきた猫”状態からようやく街と新事務所に馴染んできたように思います。この誌面トライアングルでも馴染んでいけるよう、そして充実したITセンター情報をご提供できるよう精一杯努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

(今津)

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