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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.57 
CONTENTS 2012.11(平成24年)

■障害者労働・雇用国際フォーラム2012

■障害のある人の在宅雇用事例
 株式会社インテリジェンス・ベネフィクス勤務者様

■就労支援事業における「在宅利用」の可能性と実現に向けて

■シリーズ第19回 東京都障害者IT地域支援センター便り
 満を持して市場に出た「トーキングエイドfor iPad」

■ビジネスマナースクーリング(「IT技術者在宅養成講座」受講生募集中!)

■おめでとう

フォーラム風景
フォーラム風景

 去る9月25日、参議院議員会館にて『障害者労働・雇用国際フォーラム2012〜社会支援雇用制度の創設に向けて〜』と題したシンポジウムが開催されました。日本障害者協議会主催によるこのフォーラムには300人を超える関係者が集い、欧州障害者雇用の研究者および現場の方から、雇用情勢や労働施策等、たくさんの貴重なお話をうかがいました。

 その中で私が注目したのは、各国共通の課題である「一般就労」と「福祉就労」の線引きに関するものです。企業から福祉の世界に飛び込んだばかりで、障害者の労働事情に理解の浅い私にとっては、この2つの働き方の間にある障壁について大きな疑問を持たざるを得ませんでした。

 障害の内容・程度によって働ける可能性には幾つもの段階があります。それは本人の意欲はもちろんですが、その人をとりまく周囲の変化によっても相当に変わっていくものです。一般労働市場で働きたいと願う人は一人でも多く社会に出ていくべきですが、そのためには、誰でもが平等に利用できる段階的な向上のしくみが、働く場を継ぎ目なく変化させていくべきです。しかし、日本のみならず、欧州諸国も含めてこれらの実現と現状には大きな開きがあるようでした。

 特に日本では、障害者自立支援法と雇用促進法に基づき、幾つかの働く施策が講じられておりますが、自由度の低さは否めず、欧州各国に比べて「一般就労」と「福祉就労」の壁はより浮き彫りになっているように感じられます。

 折しも、東京都は2020年のオリンピック・パラリンピックの招致に名乗りを挙げておりますが、パラリンピックの水泳では肢体不自由クラスだけでも10段階に分かれるなど、障害特性に合わせて段階的にチャレンジできる制度が整っております。

 就労の場においても、「一般就労」と「福祉就労」という二極的なものでは無く、その人の働く力に着目した段階的なチャレンジの場を整える事が、障壁の解消に繋がるものでは無いかと感じております

(山崎)

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株式会社インテリジェンス・ベネフィクス様
株式会社インテリジェンス・ベネフィクス様

高橋綾子さん
(両股関節機能障害 2種4級)
(SOHO支援事業2011年登録/職業紹介事業2012年登録)

株式会社インテリジェンス・ベネフィクス 事業企画グループ所属


仕事開始時期
2012年8月
労働形態
在宅雇用(契約社員)
就業時間
10:00〜17:00
仕事内容
WEB制作
出  社
不定期
就労場所
自宅

Q:フリーランス生活では、コロニーのSOHOチーム「es-team」でも活躍なさっておられましたね。そこからの転身で就職されて3か月。今のお仕事状況を教えてください。

 所属は営業企画チームと募集企画チームの兼務でして、募集企画チームでは、親会社である(株)インテリジェンスの「DODAチャレンジ」という人材紹介のWEB制作・更新をやっております。また、営業企画チームでは、弊社インテリジェンス・ベネフィクスのWEB制作の担当です。現在、競合調査をしたり様々な企画案を出しているところです。

Q:フリー時代にやっておられた仕事がそのまんま役立っている感じですね。とはいえ同僚の方との作業は遠隔です、滞りなくいっておられますか?

 ええ、ありがたいことに仕事自体がとても楽しいです。おっしゃる通り今までも一人で同様の仕事はしていたけれど、現在は「会社の中で仕事をしてる実感」「仲間と一緒にやってる実感」があります。会社は情報共有がしっかりできており、グループ全体の勤怠や業務はイントラネットで管理していますし、同報メール、アウトルックで全員のスケジュールも確認できます。「○○さん、今会議してるね」など、自宅にいながらわかります。

 チーム内ではWEB制作の経験が少ない人もいますが、教えあう雰囲気などすでにスムーズにできています。ディレクション(指示)担当が他部署とのやりとりの確認をしてくれるなど、作業の流れができているんですよね。

Q:なるほど。普段から仕事の手順やデータ活用がネットワーク化されていれば、特に「在宅雇用のため」にスタイルを変えなくてもイケるのですねぇ、納得。さて、フリーで活躍なさっていた高橋さんが今年「在宅雇用」をお考えになったのは、何かきっかけがあるのでしょうか。

 SOHO時代は、生活維持のために常に数社を相手に仕事をする必要がありました。だけど、制作に入ると営業ができない。制作と営業の両方を一人でやらないといけないんですよね。断ると次の仕事が来なくなるので、体調を若干無理しても請け負うこともありました。“自分の中で責任を負うのは鉄則”、これは充実感はあったけど疲れる時もあった

 そのうち足の具合が悪くなっていって打ち合わせや外出が難しくなりました。徹夜などもあって、先々のことを考え、就職を視野に入れるようになりました。

Q:なるほど。フリーランスのやりがいと生活保障の両立の難しさですね。さて、今はスタート地点に立たれたばかりですが、これからの近々の課題は何でしょう。

 会社に入ると、基本的には一つあるいは関連するいくつかの限定されたサイトに従事しますから、仕事のバラエティという意味ではSOHOのほうがやっぱり楽しいです。でも、今は、作りっぱなしではなく、「このサイトがどう使われていくか」、じっくり経過を見ていくことができる別の面白さがあります。特にうちの会社には「障害者雇用」の橋渡しをするサイトもありますから、自分としてはとてもやりがいがある。これからは技術的な知識というよりも、こうした業務知識をきちんと得ていくことが大事と思っています。

Q:お話からは、入社以降の「在宅勤務」がとてもスムーズなスタートだったとお見受けしますが、高橋さんがお考えになるその要因をズバリ教えてください。

 まず、事前の在宅の環境整備やセッティングを丁寧に実施してくれました。PC一式、リモートアクセス、イントラ整備、セキュリティ確認などなど、技術環境面は不安になることはありませんでした。また、週一回の出社の際に、現在の会社の状況や周囲のことを、こと細かく教えてくれることでしょうか。出社方法についても配慮をもらっています。通勤は杖を利用しての歩行ですが、週一でも自分にとってはかなり大変。状況によって「午前は自宅で午後出社」など細かく調整してくれるので「続けられるぞ」と思っています(笑)。

Q:では最後に、恒例の、次へ続く方へのアドバイスをお願いします!

 会社で働く場合、知識や技術も必要だけど、「素直に学んでいく力」が求められると思います。特にWEBの技術はどんどん変わる。その都度の環境にあわせて作らないといけないこともしばしば。「郷に入れば郷にしたがえ」で、その時々のやり方を素直に学びましょう。また、SOHOの時は「わたしはこれができます」という技術レベルが勝負だったけど、会社では、定められたチェックの仕方やホウレンソウ(報告・連絡・相談)のほうがもっと大事かもしれませんね。

インタビューを終えて:

 「今後WEBを充実させていく予定なので、今までの知識をフル活用したい!」、そうおっしゃる綾子さんの元気な笑顔が、とても嬉しいインタビューでした。
 それはそうと、お話の中にもあったように、雇用と非雇用では生活の安定度は大きく違います。特に、重い障害や疾病があるために労働市場に入れず自営を選んでいる方々にとっては、この収入だけで生活を営むことは非常に困難です。いわゆる福祉就労の方の所得補償などともあわせ、社会全体で取り組む喫緊の課題と言えます。

(堀込)

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 今号の冒頭記事でも触れていますが、いわゆる「一般就労と福祉的就労の二元的な構造」が積年の課題として叫ばれ続ける中、そのどちらでもない「フリーランス(自営)型」を12年にわたり継続してきた在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」も、在宅就業支援団体制度の創設(2006年)を機に、広くその存在意義を知られるようになりました。また、ここ数年、この分野の動向調査や研究もコンスタントに行われるようになり、先の通常国会では、障害者就労施設からの物品調達の推進策において、es-teamのような在宅就業支援団体もその推進対象に含めると定めた法案が可決され、来年度から施行される予定です(※1)。

 しかしながら、調査等によって顕在化された就労希望者の多様さ、その受け皿としての団体運営基盤の脆弱さ、早急な公的支援の確立など、在宅就業支援制度には課題も多く残っており、端的に言えば「そもそもの立ち位置が不安定」という、一般就労や福祉的就労支援における諸課題とは根本的に異なる性質がまさに浮き彫りとなっています。一定の社会的位置付けやそれに伴う公的な支えにより、在宅就労にも「新たな職域」「シームレスな支援」を広げていきたい。関係者の思いは強まるばかりです。

 こうした中で今年3月、障害者支援施設におけるサービス利用について、条件付きながら「在宅でも利用可能」とする厚生労働省の通知が発せられました(※2)。本人や支援者等が繰り返し叫び続けてきたことが、ようやく結実の方向にむかって舵を切り始めたと評してよいでしょう。行政通知レベルではあるものの、原則通所・施設拠点であったサービス利用の前提が、在宅というニーズの増加にあわせてアレンジされたことは、移動が困難な人をはじめ、より多くの人たちの就労機会の拡大につながるものと思われます。

 東京コロニーにおいても、こうした一連の動きに関わってきた経緯から、また、20以上の就労支援事業を横断的に行っているという立場から、これを機に更なる制度の充実に向けて取り組むとともに、es-teamを中心に、在宅での就労サービスを具体化し、働く意欲と能力の発揮の場づくりに向けていっそう努めていきたいと考えています。

(吉田)

※1「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」(平成24年法律第50号)
※2「『就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について』の一部改正について」(障障発0330第6号、平成24年3月30日)

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トーキングエイドfor iPad
トーキングエイドfor iPad
(クリックすると大きな画像が開きます)

 20年以上にわたりコミュニケーション支援機器として絶大な人気を博してきた「トーキングエイド」が、今夏「トーキングエイド for iPad」として再登場しました。

 トーキングエイドがiPadに?と話題騒然だったこのアプリ。テキスト入力版ではキーの保持時間や無効時間の設定が可能であったり、シンボル入力版では任意の画像を取り込んで自由にカスタマイズできたりと、便利な機能が盛りだくさん。

 画面をタッチしにくい方は別売りの「キーガード」と「プロテクトケース」を装着すれば、押しやすいだけでなく水や落下からもしっかりガードできますし、画面を指で押し分けて操作するのが困難な方には「ワイヤレススイッチボックス」もあります。スイッチでの操作も可能です。

 当センターでは発売と同時に展示案内しておりますが、予想以上に反響が高く、支援者向け講習会も満員御礼の賑わいでした。ちょっと触ってみようかな、と興味を持たれた方は、ぜひ当センターにお越しになり思う存分お試しくださいね。

(今津)

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
電話 03-6682-6308  FAX 03-6686-1277

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 去る10月10日に「IT技術者在宅養成講座」の2年生及び「Web制作委託訓練」の方々と合同で、ビジネスマナーに関するスクーリングを行いました。在宅就労特有のシーンに合わせて、特にメールでのコミュニケーション・言葉遣いを中心に学んでいただきました。

 普段何気なく使っている言葉も、ビジネスシーンにおいては如何なものか?と、講師である私共も準備段階で言葉選びに注意する等、自身にとっても良い機会となりました。

 さて、「IT技術者在宅養成講座」では、現在、平成25年度の講習生の募集を行っております。ITに関する知識・技術だけでは無く、コミュニケーションやマナー等、在宅就労に必要とされる能力の向上に努めておりますので、ふるってご応募下さい。

(山崎)

平成25年度募集要項
説明会のご案内

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◆独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)にて在宅勤務決定
 K.H さん 筋疾患 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

KHさん


編 集 後 記

 最近、ひと月980円で映画見放題のネット動画配信サービスの契約をしました。パソコン以外にもタブレットやスマフォで観れて、ちょっと幸せです。ただ、この契約時に使ったメールアドレスに、一日100通を超す広告メールが来るようになって。友人は、「いつ解約してもいいアドレスを書くのが常識」とクールに反応。ちょっとした幸せは結構面倒なものなのですね…。

(堀込)

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