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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.53 
CONTENTS 2011.7(平成23年)

■震災とテレワーク

■障害のある方の在宅就労事例

■es-teamミーティング2011 開催

■シリーズ第15回 東京都障害者IT地域支援センター便り
 「来場者の方の増加の意味は・・・」

■今年も委託訓練「Web制作講座」やっています!

■おめでとう

 このたびの震災は、甚大な被害に見舞われた東北地方はもちろんですが、首都圏にとっても日常の根幹を揺るがすほどの大きなショックでした。

 特に労働分野では、しばらく余震が多かったことと電気が十分でなかったことで、誰もが通勤困難者となり、多くの事業所が自宅待機や部分的在宅勤務の措置を取ったことは記憶に新しいところです。

 それから4カ月。事態は夏場の電力供給体制の問題に突入し、あらゆる危機回避をそれぞれの事業所が検討すべき段階に入りました。ここで関心が高まってきた勤務形態が、再びテレワーク。震災後その場しのぎ的に行った在宅勤務とは違い、より合理的にリスクを分散させるために、いわば新しい作戦を立てる必要性が生まれたのです

その作戦の効果として、総務省や経産省は下記のようなポイントを挙げています。
・労働(人)や機材、情報の集中を防ぎリスク回避
・移動を少なくすることによる都市の省電力化
・労働の場所を選ばないことによる優秀な人材活用

 3番目の項目にニュアンスとしては入っていますが、長年、通勤困難な方の在宅就労支援を実施してきた幣団体としては、加えて「あらゆる状況の方が共に働ける」というメリットを明確に入れておきたいところ

 その有効性が広く理解されたこの夏、ぜひ多くの会社に在宅勤務の導入を検討していただきたいものです。その折には、私ども社会福祉法人東京コロニー職能開発室へどうぞご相談ください。ご事情にあった在宅勤務制度の構築と同時に、障害のある方の雇用実現へ向けてご協力させていただければ幸いです。

(堀込)

(※1)テレワーク:モバイル端末等を利用した、事業所以外での働き方。外出先でのPC業務や在宅勤務等も形態の1つ。

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尾崎さんの写真
尾崎さん

尾崎 新(あらた)さん (20代)
(筋ジストロフィー 1種1級)
(IT技術者在宅養成講座2010年修了)

在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」所属

 今回は、「es-team」でWeb制作を手がける尾崎さんにお話を伺いました。登録2年目ながら、旺盛なチャレンジ精神で成果を積んでいます。かつては働くことへの不安があったものの、講座を経て、仕事を重ねていくうちに「これなら!」という確信に変わっていったとのこと。穏やかな口調ながらも、しっかりと思いを語ってくださいました。

Q:es-teamに入る前は、東京コロニーの在宅講座を受講されていました。どのような経緯で在宅就労をめざそうと思ったのですか?

 以前は4年制の大学に通い、国際政治経済を専攻していました。とても充実していましたが、卒業後のことはあまり考えられませんでした。体調等の事情もありましたが、そもそも自分は何がしたいのか?何ができるのか?迷っていました。

  そんなときに知ったのが、東京コロニーの「IT技術者在宅養成講座」。在宅就労を意識し、家にいながら学習できるこの講座は、コツコツとやっていくタイプの自分にぴったりと思いました。この間、国家資格試験(初級シスアド、基本情報技術者)にも合格しましたが、個別の就労相談や指導のおかげで「何ができるか?」という漠然とした考えから「在宅なら働ける!」という自信につながっていきました。

Q:そうして得た「自信」を、es-teamで活かしたい、と思ったわけですね。

 ただ、心配事もありました。私は呼吸器を使い、病気も進行しています。就職には一定の就業時間が必要なことを考えると正直厳しいです。だけど働きたい。少しずつでも実現させたい。そういう思いから、「es-team」の門をたたきました。雇用ではなく在宅で請け負う、フリーランスに近い働き方ですね。昨年の3月のことでした。

Q:ようやくスタート地点に立てたわけですね。
尾崎さんの作業風景

 自分のペースとはいえ、請けた以上、その責任はどんな働き方であっても変わりません。最初はプレッシャーの連続でした。納期に間に合うだろうか、わからないことがあったらどうしようか、そして体調の管理は…。

 そんなとき、es-teamの先輩たちが支えとなりました。「チーム」だけあって、自分はひとりではないことを感じました。仕事の割振りや、私のような新人指導をしてくださる方がいるのですが、「何から何まで」ではなく、ヒントや方向性を示してくださることがありがたかったです。おかげで、仕事への理解が伴い、少しずつ進んでいきました。

 他のみなさんからも刺激をうけました。年に一度の「es-teamミーティング」では、それぞれが自分のペースに合わせながら大きな仕事をしていたり、自活していたり、仕事以外の活動や事業にも積極的だったり…。月並みな表現ですが、目標にしたいと思っています。

 もうひとつ嬉しかったのは、担当した仕事が世に出たときですね。「もっと優しい旅への勉強会」という、バリアフリー旅行を推進する団体様のサイトリニューアルの仕事をいただきました。私の担当は約80のページリニューアル。納期はゆったりめでしたが、それでも忙しい日々になりました。アクセシビリティチェックや校正、イレギュラー対応など迷うこともありましたが、メンバーのサポートもあって、徐々にペースを上げることができました。サイトが完成したときの達成感は格別でしたね…。自分の携わったものが公開される。お客さまに喜ばれる。報酬が得られる。慣れないしんどさや、お金を稼ぐことの難しさも知りましたが、それら含めて充実感がありました

Q:最後に、これからの抱負をお聞かせください。

 es-team登録時、基本契約にある「体調不良等により業務遂行ができなくなったとしても、それを理由に不利益な扱いはしない」という一文が印象に残りました。仕事の中断がよいわけではないですが、何よりもありがたいのは、それを認め支える仕組みがes-teamにはあるということ。私のような働き方を選択する人にとっては、安心して働くための担保と思っています。もっと広がって欲しい仕組みのひとつです。

 今後ですが、仕事の内容も技術もステップアップしていきたいです。新しいサイトの立ち上げなども関わってみたいし、あとは、自分がしてきたこと、していることを発信したい。特に同じ疾病のある人たちの中には、働く意欲の高い人たちも多いので、自分の軌跡を通じ、こんな働き方もある、というのが示せたらいいなと思っています

尾崎さんが制作にかかわった「もっと優しい旅への勉強会」新サイト
尾崎さんが制作にかかわった「もっと優しい旅への勉強会」新サイト

インタビューを終えて:

「自分はコツコツとやっていくタイプ」と語る尾崎さん。一日の働く時間が限られている中であっても、名前が示すとおり「新たな」ことにチャレンジし、少しずつでも仕事を進めていこうとする姿が印象的でした。
「安心して働ける環境が、やる気につながっている」とも語ってくださいました。
尾崎さんのように、わずかな時間でも就労し、お客さまに喜ばれたいと望む人が増えています。そして、その就労支援の仕組みの構築は、もはやまったなしではないでしょうか? こちらのほうは「コツコツとやっていく」というわけにはいかないと、強く感じました。

(吉田)

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es-teamミーティング
es-teamミーティング2011のようす

 スマートフォンやタブレット端末など、いわゆる「次世代デバイス」の普及がいっそうの加速をみせ、各社の新製品情報が毎日のように飛び込んできます。私たちとしては、機能や操作を知ることはもちろん、コンテンツやアプリケーションの制作という視点でも、これらの端末と付き合っていく必要があります。年に一度、メンバーとスタッフが一同に会する「es-teamミーティング」。今年は、この分野で先鞭をつけて活躍している、安田善一郎さんを講師に招いてお話を伺いました。安田さんが開発されたiPhoneアプリ(※)の実演には、一同が身を乗り出して注目。基本的な知識から制作者の立場まで学びたい、という私たちの「欲張りな」要望に対し、たくさんの資料やエピソードを交えた丁寧な解説で応えてくださり、とても充実した講義となりました。

 ミーティングではこのほか、メンバー2名による近況報告があり、それぞれes-teamの就労とは別に携わっている事業や活動についてのプレゼンがありました。詳しくは別の機会にお伝えしたいところですが、個人的な気持ちや意思による行動の充実と、仕事の充実とは相乗的につながっているということを実感しました。メンバーや付き添いの方からの質問も活発なものとなり、最後は予定時間をオーバーしての終了となりました。

 7回目となった全体ミーティング、今年は新メンバー1名も加わり、計9名が集いました。震災の影響により開催そのものも危ぶまれましたが、メンバーのみならず、付き添いの方々やスタッフ、講師や関係者も交えて、全員が一同に会し、講義や発表、意見交換を通じて親交を深める場の重要さを再認識した一日でもありました。

(吉田)

iPhoneアプリ「 NoelBell (ノエルベル)」
 クリスマスソングを演奏できるハンドベルのおもちゃ。 AppStoreからダウンロードできます。

【参考サイト】
 ・安田さんが運営するSOHOプロダクション 「Ciel Serein (シエルセラン)
 ・デザイナーによる震災復興支援活動を記録するサイト 「design311

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東京都障害者IT地域支援センター
東京都障害者IT地域支援センター

 震災後、センターへの来場者や相談の電話数が増えています。これらは何を意味するのでしょう。

 今回の震災によって、非常時に情報の入らない怖さ、不便さを味わわれた方は少なくないと思います。センターのお馴染みさんの中では特に「情報障害」と言われる聴覚障害の方のお嘆きは大きく、数人の方があの日状況が飲み込めず、エレベーターに閉じ込められる等の被害に遭われていました。そんなことから、情報端末などによる、人に頼らない情報入手の方法を求めて、平常時よりも多くの方々がセンターに来られているのだと予想されます。

 しかし、実は情報端末が使いこなせても、一部の方にはそれを活用できないケースがあります。音声で読上げないホームページ(PDFや画像のままWEB化)や、利用できない問い合わせ先(電話番号しか書かれていない)などがそれです。提供側の配慮不足による二次的な情報障害は絶対に回避しなければなりません。

(堀込)

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒162-0052 新宿区戸山3-17-3 (最寄駅:副都心線 西早稲田駅)
電話 03-3208-0471  FAX 03-3208-0472
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受講生の作品
受講生の作品

 職能開発室では、2年間の「IT技術者在宅養成講座」のほか、(公財)東京しごと財団より委託を受けて半年間のe-ラーニングコース「IT講座Web制作基礎・応用」を実施しています。この講座では、HTML言語、スタイルシートなどの基本技術から、制作ソフトの使い方、Webアクセシビリティなどを在宅で1日5時間みっちりと学びます。

 6月には今年度の講座が開講し、5名のフレッシュな受講生が集まりました。ここで学んだことを在宅就労に結び付けたいという真剣な眼差しの方ばかり、半年間体調に留意して、ぜひ思いを実現させていただきたいと思います。

(岩田)

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◆株式会社TBSテレビにて在宅勤務決定
 H.H さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 2011年修了)

   
◆株式会社 東京商工リサーチにて在宅勤務決定
 K.Y さん 脳性小児麻痺・腎臓機能障害 2級
 (職業紹介事業2011年登録)
   

◆マイクロソフトオフィススペシャリストExcel合格
 K.K さん 脊髄損傷 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

   
 K.R さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)


編 集 後 記

節電の夏がやってきます。「緑のカーテン」のためのゴーヤ苗や、窓を開けたまま鍵がかかるグッズなど、意外なものも売れ筋のようです。電気に頼る生活を見直すきっかけにもなるかもしれませんね。

(岩田)

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