Vol.44
CONTENTS 2008.7(平成20年)
2006 年、国連で採択された障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」)は、当事者団体などのNGOが直接議論に参加してできた21世紀初の人権法であり、障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的で総合的な国際条約です。
我が国においても昨年9月に署名したところであり(本年5月3日発効)、今後の国内法整備に向けて、各方面で考え方の整理検討が始められています。
権利条約は、アクセシビリティ、家族、教育、労働等様々な分野において講ずべき事項を規定していますが、特に労働分野では、
- あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全・健康的な作業条件を含む)に関する差別の禁止
- 公正・良好な労働条件、安全・健康的な作業条件及び苦情に対する救済についての権利保護
- 職場において合理的配慮が提供されることの確保等のための適当な措置をとることにより障害者の権利の実現を保障・促進すること
とされており、中でも、「合理的配慮の提供」というこれまで我が国にない概念が盛り込まれていることを踏まえ、どのような措置を講ずるべきかが焦点になっています。
労働における「合理的配慮」の考え方は、アメリカでは、
(1) 施設・情報へのアクセシビリティ等
(2) 職務の再編成
(3) 勤務地の変更
(4) 労働時間の変更・休暇の付与
(5) 空席の職位への配置転換
(6) 企業内外における教育訓練・試験
(7) 援助者・介助者の配置
などが挙げられており、当然「勤務地の変更」の中には、テレワーク(在宅勤務)も含まれます。
しかし同時に、この「合理的」は、使用者にとっても“合理的”であるという意を含んでおり、その配慮が事業主にとってコスト面や施設運営に与える影響が「過度の負担になる場合を除く」という定義であるのが議論となるところです。
集団での業務遂行が一般的な我が国で、職場のルールにない在宅勤務をどこまで事業主に求めることができるのか。労使がともに均衡を失わず、過度の負担を課さない範囲とは・・・、大いに論じられるべきでしょう。
そして、ひとつひとつのケースを丁寧に検討したうえでその情報を共有していくことが、我が国にふさわしい制度の整備につながっていくに違いありません。
(堀込)
注:上記は全て政府仮訳によるもの
「合理的配慮」の原文:reasonable accommodation
金久保さんの作業風景
金久保 千秋さん (20代)
(脊髄疾患 1種2級)
(IT技術者在宅養成講座2007年入学)
株式会社ベイカレント・コンサルティング 人事部所属
入社時期 |
2007年8月 |
雇用形態 |
契約社員 |
勤務時間 |
9:00〜17:00 |
就労場所 |
自宅 |
労務管理 |
毎日の開始と終了時のメール(あるいは電話) |
出 社 |
不定期 |
仕事内容 |
新卒採用に関わるデータ及びドキュメント作成 |
今回は、もう少しで在宅勤務1年となる乙女、金久保千秋さんの登場です。金久保さんは、病気になられる前にアパレルやシンクタンクで業務のご経験があり、IT関連の資格も早くからお持ちでした。とはいえ、在宅勤務は今回が初めて。勤務後ひと息ついておられるところをお邪魔してまいりました!
今の仕事は、人事の新卒採用システムの操作とそれに付随したデータ管理・累計やマニュアル作成です。WEB上から選考会などの予約をしてきた学生に受付確認のメールを流したり、会社からFAX等で送られてくる情報をもとに出欠状況などを登録していきます。そのための予約コードや予約画面を作成・修正することもあります。開始当初はマニュアルをひたすら読むだけの日が長く、「これからわたしどうなるのかなぁ」なんて思っていましたが(笑)、今は採用の流れも掴めてきました。今後インターンシップもスタートするんですが、少しずつ任されることも増えてきて、頑張らなきゃって感じです。
面白いです。先ほどご説明した採用システムで学生さんたちのデータを全て一元管理できます。「この方々がこの先会社を動かす人になるかも」と思うと、その採用のための作業に自宅にいながら関われるのはすごいことだな、と感じます。
ほとんどメールですね。現在やりとりしているまわりの人たちが本当にメール上手で(笑)。仕事のことはもちろんですが、それ以外のこともついつい話し込んでしまいます。学生時代、交換日記を7ページも書いたという逸話のある方もいて。コミュニケーション能力が高い方に恵まれてラッキーです(笑)。
また、疑問に思ったらすぐに質問します。これは入社した時、人事の方から言われた「自分だけで判断しない」という鉄則がベースになっています。まわりに迷惑は絶対にかけたくありませんから。
パソコンやネットの調子が悪い時とか、ですかね。会社内だと、システム担当の誰かがすぐに見てくれたりしますよね。でも自宅環境だとまずは自分で調べないと。プロバイダに連絡したり、自分でルーターをいじってみたり。
当たり前ですが、自分でできるところは自分でやります。いかにテンパらないで冷静に判断できるかって大事ですね。
あと、ずっと座って一人の作業ですから、腰痛などが増えたかもしれません。ベッドで足を伸ばしたり、あえて休憩をきっちり取ることも必要です。
うれしかったことは、作成したマニュアルを提出した際、「すばらしい出来」と評価をもらった時です。素直に「またまた頑張るぞ」って思えました。本当の意味でつらかったことは、まだないと思います。とにかく一緒に仕事をしている人たちが明るく楽しいので。
くさらずにコツコツやることでしょうか。もしわたしが前向きに行動できているとしたら、それは、「明日、体調が悪くなるかも」って常に思うから。以前、病名がはっきりしなくて辛い時期がありました。その折りの悔しさを知っているので、いい状態で仕事ができる今は、前を向いていかないと!と思うんです。
金久保さんが初めての在宅雇用だったベイカレント・コンサルティング様。当初は在宅でどんな働き方ができるの? と不安に思う社員の方もおられたとか。でも今は金久保さんの仕事ぶりで、明確にその有用性を理解いただいているとのこと。嬉しいですね。
お褒めの言葉をいただいたドキュメント作成は、実は以前の会社で業務引継時の経験があったとうかがいました。すべての仕事は明日につながりますね。これからも可愛い笑顔を時々見せてください。
(堀込)
在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」では、日ごろ在宅で働いているメンバーが一同に会し、事業報告や今後の方針を話し合い、そして親交を深め合うための「全体ミーティング」を年に一度実施しています。今年で4回目となるミーティングですが、これまでのゲストスピーカーによる講義を中心としたものから趣向を変えて、参加者同士のディスカッション形式によるプログラムを取り入れました。チームの方針、在宅就労全般に関すること、仕事上の悩み、個人的なノウハウやヒントのお披露目など、参加者全員がスピーカーとなって意見交換や課題抽出をしたり、解決に向けた提案などを話し合う試みです。参加者は計9名。ひとつのテーブルを囲んで議論が飛び交う、非常に充実した時間を過ごすこととなりました。
今回のディスカッションでは、いくつかの項目について事前ヒアリングを実施し、その回答をベースにテーマを絞っていきました。ヒアリングの回収率も高く、また問題意識も明確であったため、想像以上に多くの意見や主張、そして新しい「気づき」も出てきました。総じて和やかな雰囲気の中、会話が弾む場面、止まる場面いずれもありましたが、情報の共有や問題の提起、解決に向けた提案などが真剣に話し合われました。
日ごろes-teamがお客さまより受託して行う仕事は、個々のメンバーの就労可能な時間やそのときのコンディションなどにあわせ役割分担をして行うことが多く、いわば個々のSOHO事業者がチームワークによって補いあい、成果物をつくりあげていくことで成り立っているのが特徴です。また、繁閑や仕事量・内容の違い、通信手段の違いによって個々の係わり方も異なってきます。こうした形態においては、仕事を通じて行うコミュニケーションが循環し、互いに安心して働ける仕組みの必要性をいっそう強く感じます。「雇用されずに働く」という在宅就労のスタイルが普及し、またその支援団体の数も種類もふえつつある中、個人個人の考え方やワークスタイルを尊重しつつ、チームとしての方向性をともにつくりあげ、共有し、ひいてはそれが良質な仕事やお客さまのさらなる信頼につながっていくよう、よりよいチーム環境をつくっていきたいと思います。
(吉田)
es-teamミーティング2008のようす
本誌でもたびたびお伝えしてきた厚生労働省認可の「在宅就業支援団体」は、2008年6月現在、全国で18ヶ所となっています。この18番目に登録されたのは神奈川県の株式会社「研進」で、「企業」の登録が認可されたのは全国初とのこと。この(株)研進は福祉施設の窓口的企業であり、企業ならではの営業力やフットワークを活用するなど、新しい就業支援の形が今後も増えていくことが期待されます。
一方、私ども東京コロニー職能開発室では、この6月から、島根県の在宅就業支援団体「社会福祉法人ふらっと」様のe−ラーニング講座のお手伝いをさせていただいています。これは、厚生労働省委託事業の中の「他の在宅就業支援団体への支援ノウハウの提供」として実施するもので、具体的には、講師(es-team所属)の派遣やe-ラーニングシステム等のご提供をしています。
同じ目標に向かって試行錯誤を繰り返している支援団体同士が手を結び協力することで、新しい気づきや可能性も生まれ、相互の発展に結びつくのではと感じています。
(岩田)
『副都心線、もうご利用になりましたか?』
去る6月14日、ITサポートセンターのある西早稲田に新しい風が吹きました。最後の東京メトロと言われる副都心線の開通です!
運行開始以来遅延も多く、お叱りの声も時々聞くこの新線ですが、何といってもサポートセンターに徒歩3分で来ていただけるのはセンター始まって最大の朗報。おいでになった皆さんが「やっと楽に来られるようになったよ」と口々に言って下さいます。また、各駅に多目的トイレが2つあり、車椅子でも安心して動けると評判です。
ICTがどれだけ発達しようとも、物理的な移動の保障が可能性をどれだけ広げることか! 改めてそれを実感している嬉しい6月です。
(堀込)
●東京都障害者ITサポートセンター
電話 03-3208-0471 FAX 03-3208-0472
副都心線 西早稲田駅からの交通のご案内
●東京メトロ 副都心線 各駅情報
副都心線 西早稲田駅構内
◆基本情報技術者試験 合格 |
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O.T さん 多発性硬化症 1種1級 |
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◆初級システムアドミニストレータ試験 合格 |
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サポセン便りでも書きました「東京メトロ副都心線」、開通の日に乗車してまいりました。職員も乗客もまだ動線がわからず右往左往、駅構内はツルツルピッカピカで新しい建築物の匂いがします。「ああ、新しい路線なんだな」と実感したあと、乗り換えた古い丸の内線で、なぜか人波に暖かさを感じ、ホっとしました。
(堀込)