重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.32 CONTENTS  2004.7(平成16年)

   

■「障害者の在宅就業に関する研究会」報告書より

■障害のある方の在宅勤務事例

■作業姿勢とユニバーサルデザイン

■(株)沖ワークウェルの設立

■IT資格を取ろう!

■おめでとう




     在宅就労も「雇用率」に入る?!
 
―厚生労働省「障害者の在宅就業に関する研究会」報告書より

 

 今年度4月をもって終了した上記研究会(座長:法政大学 諏訪康夫教授)は、報告書の中で、在宅就労の支援の形や方向性について、初めて明確な施策案を出しました。 方向性として盛り込まれたのは、以下のようなものです(「報告書の概要」の一部を編集)。

●障害者の在宅就業支援策の方向性

(1)障害者の在宅就業への発注奨励
 (一定額以上の外注を一人分の雇用とみなして雇用率に算定する、あるいは雇用率未達成企業等が支払うべき納付金の減額、雇用率達成企業等が受け取る調整金、報奨金の加算等)

(2)官公需における配慮
 (在宅就業に対する発注上の優遇措置)

(3)セーフティネットとしての支援団体の整備・育成

(4)在宅勤務の環境整備
 (在宅勤務の雇用管理者配置の助成措置等)

(5)能力開発機会の提供
 (ITを活用した在宅での技能習得等)

(6)在宅就労コーディネーターの育成
 (請負、雇用双方でのコーディネーター育成・配置支援)

 ポイントのひとつは、企業が在宅就労者へ仕事を発注する際のメリットを明確にする、ということですが、あわせて、支援団体を核とする教育から仕事への柔軟なしくみを作ることが、裾野を広げていく鍵となることでしょう。「教育」の面では、企業が仕事を出すだけでなく、一定期間トレーナーを派遣するようなやり方も望まれるかもしれません。

 現在、厚生労働省では具体的な支援策の検討に入っており、来年の通常国会で法改正を目指すようです。先般可決された新・障害者基本法を根本とし、あらゆる働き方が保障される日を皆で期待したいものです。

※報告書は以下で読めます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0409-5.html

[堀込]

 




     障害のある方の在宅勤務事例

 

中村 亜矢子 さん

(脳性麻痺 1種1級)
(在宅パソコン講習 '97年修了生)

株式会社沖ワークウェル 勤務

 


中村さんの作業環境

 

 今回は、当号でもご紹介しています株式会社沖ワークウェルの中村亜矢子さんにご登場願います。

 1998年に在宅勤務形式で就職なさって今年で6年目(当時は沖電気工業株式会社)。パイオニアとして走り続けてきた中村さんに、特例子会社に生まれ変わった節目の年の思いを語ってもらいたいと思います。


  Q:在宅勤務6年目で、皆さんのお仕事が特例子会社という形で再スタートしました。お気持ちはいかがでしょう。
   在宅勤務者は、今まで沖電気の社会貢献推進室の中で、一つのチーム(呼称:ネットワーカーズ)として働いていました。このたび、それが会社という組織として確立され、と同時に仕事の枠も大きくなりました。例えば、以前から力を入れていたアクセシビリティ関連などの業務も一層明確な位置づけとなっています。ネットワーカーズ時代の仕事がそれぞれ発展しているという感じで感慨深いです。

  Q:中村さんのお仕事は変りましたか。
 

 大枠では変っていませんが、名刺作成など新しい仕事も増えました。親会社の沖電気でも名刺発注のシステムはありますが、どちらかというと標準的なパタンの名刺を大量に受注するのに適しています。うちは、NPOさんなど小規模の受注もやりますし、標準パタン以外のレイアウトもやってます。イラストが得意な社員が在宅で絵をおこし、わたしが在宅でレイアウトをする。それを、知的障害のある社員が事業所で印刷・箱詰めをするのです。特例子会社ならではのパワーを発揮しています(笑)。


  Q:中村さんのように在宅勤務の黎明期に入社した方と、最近入社した方では、やり方などに違いがありますか?
 

 最初の頃は手探りでしたね。今は回線も皆ブロードバンドですし、グループウェアなどのツールが整っています。また、勤務マニュアルや在宅での仕事上の注意点などもWEBに標準化されていますから、当時よりは仕事がしやすくなっていると思います。進捗の連絡なども現在は各リーダーが気配りし、指示を出しますので、段々と仕事の仕方も確立されてきました。


  Q:なるほど。では、逆に当時のほうがよかったなぁ、なんてことはありますか?(笑)
 

 いやぁ、それはないですけれど(笑)。ただ、以前は人数も少なかったので、仕事のコーディネーター役の上司が、在宅社員の家に打ち合わせに来ることも今より多かったですね。世間話もゆっくりできたかな(笑)。でも、納期直前や、仕事の内容に不安があった際は今でもすぐに電話で相談にのってもらえます。これは最初から今まで変りません。


  Q:信頼関係が離れた場所でも皆さんをつないでいるのですね。昨今、他の企業さんが、そうした御社の在宅勤務のやり方に興味をお持ちになっているようですが。
 

 うれしいことです。在宅勤務や短時間の勤務など働く形態が多様になれば、わたしと同じように働ける方がたくさんいらっしゃると思います。うちの会社とは違ったスタイルもすでに出てきているのかも。これからは、他の企業の情報も積極的にウオッチングしたいですね。


  Q:では最後に、恒例の「今、在宅就労を目指している方々へ一言」をお願いします。
 

 はい。わたしの就職当時は、勉強しても資格を取っても、なかなかその後が見えなかったような気がします。でも、昨今は在宅で働ける選択肢も少しずつ見えてきていますね。その分、皆さんやる気も出ると思いますが、反面、結果を急いでしまう気持ちもあるかもしれません。でも、学習の期間は、あせらずじっくりと地道に勉強することも大事です。全てはひとつひとつの積み重ねですからね。ひとつひとつをこなすたびに自信がついてきますよ。頑張ってください。


 

鼻とあごでの操作用にたてかけた
マウスとキーボード


 

インタビューを終えて:

 中村さんと出会ったのは約10年前。鼻とあごでマウスやキーボードを器用に操作されることに当初は本当に驚いたものです。講習修了後は、SOHOの形で、データベースの開発を一人でなさっていました。

 今も当時も変らないのは亜矢子さんのバランスのよさと安定感。メール一つをとっても、内容の確実さはもちろん、人への気遣いは卓越しています。パソコン操作の体への負担はご本人も気にしておいでのようですが、今後も長くそのキャリアを継続していただけるよう、無理のない作業を心がけてくださいね。

[堀込]




     作業姿勢とユニバーサルデザイン

 

 在宅で仕事をしようと思ったとき、皆さんはまず何を準備されますでしょうか? ITの仕事をするんだったら、もちろんパソコンは必要です。パソコンだけで仕事を始める方もいらっしゃるでしょうが、身体に障害のある方にとって重要なのは、自分に合った支援機器つまりパソコン操作を補助する機器です。パソコンは通常キーボードやマウスを操作しながら作業を行っていきますが、障害によっては通常の機器が使いにくい場合もあります。そして、それが身体に負担を与え新たな障害を引き起こしてしまうこともあります。最近では、様々なタイプのキーボードやマウスが発売されていますので、それぞれ自分にあった機器を見つけるようにしましょう。

 パソコンを操作する上でもう一つ重要なのは「作業姿勢」です。いくら使いやすい支援機器を見つけても、正しい姿勢で操作しなければ結局身体に無理をかけてしまいます。最近では、ユニバーサルデザインとかバリアフリー製品という名称で、車いすなど障害がある人にとっても使いやすく、かつ見た目も綺麗な製品が増えています。

 例えば株式会社コクヨさんは、ユニバーサルデザインに関して積極的に取り組んでいる企業の一つです。「クランク昇降タイプ」のデスク(机)では、簡単なハンドル操作で高さが650mm〜850mmの範囲内で調節でき、体格や作業内容などに合わせて最適な高さが選べます。こうしたデスクを使用すれば、車いすの肘が当たることなく机に向かうことができます。講習会場など、不特定多数の利用者が使うケースなどにもうってつけでしょう。

 今後、障害があっても使いやすい製品が増えてくることが期待されます。自分にとって使いやすいものに巡り会えるよう、積極的に情報収集されると良いでしょう。

[鶴田]

   
  コクヨ株式会社
http://www.kokuyo.co.jp/



     在宅勤務を中心とした特例子会社「(株)沖ワークウェル」の設立

 

  2004年4月、沖電気工業(株)は、日本で初めての重度障害者の在宅勤務を中心にした特例子会社「株式会社沖ワークウェル」を設立しました。

 沖電気工業様では、1998年に東京コロニーの「重度身体障害者在宅パソコン講習」の修了生3名を在宅勤務の形態で雇用。その実績をもとに採用の人数を徐々に増やし、2004年3月までにグループ全体で13名の在宅勤務者を採用し「OKIネットワーカーズ」の名称で活躍の場を広げてきました。

 OKIネットワーカーズでは、クライアントと在宅勤務技術者の間に、営業や品質管理を行うコーディネータを配し、Webサイトやポスター制作、プログラミング等のIT業務を行ってきました。在宅勤務を実践する他の企業では、在宅勤務者をそれぞれ現場の部署に配属するケースが多く見られますが、チームで業務を行うネットワーカーズは、在宅勤務の先駆的な取り組みとして常に注目を浴びてきました。

 特例子会社となった今後も、障害のある人の在宅雇用の新たなモデルとしてますます期待が高まることでしょう。

[岩田]


  (株)沖ワークウェルのウェブサイト

(株)沖ワークウェルのサイト
http://www.okiworkwel.co.jp/

 
特例子会社とは:
事業主が障害者に特別の配慮をした子会社で、その子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなし、障害者雇用率を計算できる。




     IT資格を取ろう!

 

 就職を希望する方々にとって、ぜひとも手にいれたいのは資格の数々。しかし障害のある方にとっては、勉強以前に、試験会場へのアクセス、細かいマークシートへの記入、問題用紙のページめくりなど、さまざまな心配ごとが発生します。そんな中、最近では、障害のある方への特別な配慮を設けているIT試験が増えています。

 たとえば、システムアドミニストレータ試験などでおなじみの「情報処理技術者試験」では、障害のある方専用の会場が用意され、障害の状態に応じて、時間延長や、代筆、パソコンでの回答などの方法が選択できます。

 マイクロソフト社のオフィススペシャリスト試験は、Word・Excelなどの操作能力を試す実技試験ですが、障害がある場合は、自分専用のトラックボールやキーボードの持込について、事前に試験会場に相談することができます。

 配慮を行う試験が増えてきているとはいえ、まだまだ受け入れ側も試行錯誤が多いようです。受験の際は、できるだけ本来の実力を発揮できるように、粘り強く交渉してみるとよいでしょう。

[岩田]


  試験名 情報処理技術者試験
  実施団体 独立行政法人  情報処理推進機構 (経済産業省)
  主な特別措置 パソコンでの回答、代筆・ページめくりなどの介助、白紙への回答、点字受験、時間延長
  主催者のサイト http://www.jitec.jp/
   
  試験名 マイクロソフトオフィススペシャリスト
  実施団体 マイクロソフトオフィススペシャリスト事務局
  主な特別措置 問題文の拡大表示、試験で使用する入力装置の配慮(要相談)
  主催者のサイト http://officespecialist.odyssey-com.co.jp/
   
  試験名 Java認定資格
  実施団体 サン・マイクロシステムズ(株)
  主な特別措置 口頭での回答・時間延長
  主催者のサイト http://jp.sun.com/training/certification/java/index.xml
   
  試験名 情報処理活用能力検定(J検)
  実施団体 (財)専修学校教育振興会
  主な特別措置 パソコンでの回答・時間延長
  主催者のサイト http://jken.sgec.or.jp/

  ※受けられる措置は、障害の状況によって異なります。詳細につきましては、各試験の実施団体にお問い合わせください。



     おめでとう!

 

◆オリジン東秀株式会社に勤務決定

 I.M さん  脳性麻痺 2種2級
  (IT技術者在宅養成講座 2004年修了)

◆株式会社沖ワークウェルに勤務決定
  &初級システムアドミニストレータ合格

 M.M さん  慢性関節リウマチ 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 受講中)



 

編 集 後 記

 先日、全盲の友人から「この映画どうでしょう」というメールとともに携帯に画像が送られてきました。招待映画のパンフをもらったらしいのですが、近くに解説してくれる人がおらず、電車の中の私におうかがいが来たのでした。すぐに「ラブストーリーだよ! わたしも行く!」とメールしました。

 カメラやモニター付き携帯電話も一般的となり、メールも音声で読みあげ可能。いやいや便利なものが全ての人の日常用具になったものです。昨今はこれにテレビがついて、飲み屋でもキャンパスでも見れるとか。「街のマナーは大丈夫かしらん」と思ってしまうのは、古い人間なのでしょうか…。

[堀込]



 

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