重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.31 CONTENTS  2004.3(平成16年)

   

■WebアクセシビリティのJIS化

■障害のある方のSOHO事例

■日本SOHOセンターのメルマガとイベント

■養護学校でビジネスが学べる!? パートU

■今年も奮闘!グループワーク

■おめでとう




     WebアクセシビリティのJIS化

 

 本や新聞、テレビなどは、私たちが日頃情報を得るためには欠かせないメディアです。しかし、印刷物は手に障害のある人がページをめくれなかったり、視覚に障害のある人には読むことができなかったりします。また、テレビは視覚や聴覚に障害のある人にとって不自由な点もあります。

 パソコンやインターネットの発展により、文字を音声に変換して読み上げたり、画面を拡大したりできるなど、障害に応じて適切な形に情報を変換して利用することができるようになりました。Webサイトも様々な情報を得るために非常に便利なものですが、音声で読み上げができない作りになっていたり、文字の大きさや配色をユーザが変更できない作りになっていたりと、障害があるためにせっかくの情報を利用できないことも多くあります。

 こうした問題に対応するため、誰にとっても利用できるような状態をアクセシビリティと呼び、2000年頃から情報通信機器・サービスに対するアクセシビリティ対応の取り組みが世界的に高まりました。日本においても、機器やサービスのアクセシビリティに関するJIS化の取り組みが始まり、その一環としてWebコンテンツに関してもJIS化が検討されています。

 2003年10月には、情報技術標準化研究センターのWebサイトにWebアクセシビリティJIS素案の公開レビューが掲載され、パブリックコメントの募集が行われました。現在、それをもとに修正案が作成されています。素案によると、高齢者・障害者等がWebコンテンツを利用する際のアクセシビリティを確保・向上させるために、企画、制作、保守、運用に至るまで配慮すべき要件が規定されています。

 現在、Webサイトによっては、通常のコンテンツと、テキストのみのコンテンツといったように同じ内容で複数のコンテンツを用意しているものもあります。しかし、JIS化における基本的なポリシーは、一つのコンテンツで多様な利用者に対処するということです。そのためには、音声読み上げなど利用者が自分に適した支援技術を利用できるよう配慮することが求められます。本JISは、2004年半ばには発効される見通しです。

 せっかくJIS化が行われても、自治体や企業が積極的に採用しなければ効果は得られません。アメリカでは、連邦政府の調達基準としてWebアクセシビリティが法制化されており、民間にも大きな影響を与えているようです。日本においても、公共分野の調達基準として本JIS規格が利用されることを期待しています。私たち職能開発室も、今後はよりアクセシビリティに配慮したWeb制作を行っていきたいと考えています。

[鶴田]

 

情報技術標準化研究センターのウェブサイト
情報技術標準化研究センター
http://www.jsa.or.jp/domestic/instac/index.htm
JIS素案の公開レビューが行われました。(現在、素案は閲覧できません。)



     障害のある方のSOHO事例

 

渡辺 光明 さん

(頚椎損傷 1種1級)
(在宅パソコン講習 '98修了)

株式会社エスエイエス
         専属SOHO

 


渡辺さん

 

   今回はVOL19でも登場していただいた渡辺光明さんの再登場です。SOHO生活もご自身のペースを確立され、現在はある事業所の専属ワーカーとなられています。

  Q:まずはお仕事について簡単にお聞かせください。
   今年で3年目になりますが、現在、(株)エスエイエスという事業所さんのほぼ専属ワーカーとして、在宅にて仕事をしております。内容はWEBの保守と価格表の作成等が中心ですね。事業所の業種は、測定器用の部品の輸入出です。

  Q:労働時間や賃金などはどのようになっているのでしょう。またそれは満足なさっていますか。
 

 一社に専属の形で働いていますが、雇用されてるわけではないんで、時間は不定期です。1時間1000円という時給で、働いた分だけ月末に請求します。たまに土日もやる繁忙期もありますが、普段は切羽詰った仕事は少なく、展示会など決まった期日を対象とした作業が多いですね。

  一日の作業量はなるべく4時間から5時間にしています。わたしは、体のことを考えて、「自分の時間を取れること、自分で時間をコントロールできること」を第一に考えています。リハビリや入浴、排泄などを自分のペースで行えるので、現在の無理をしない働き方はとても満足しています。

 また、成果物の量でなく、時間で請求する、というやり方も、今の仕事にはあっています。なぜなら取り扱っている製品の特性の理解も仕事のうちでして、それを考慮すると「1枚作ったのでいくら」というような計算はとても難しいんです。


  Q:そちらの事業所のお仕事がない日はどうされていますか。
 

 少量ですが、別な事業所からの仕事がある場合はそれを片付けたり、あとはWEB上で株のトレードを見たりしています。株は勝ったり負けたりかな(笑)。


  Q:仕事の面白さを実感なさるときはどんなときでしょう。
 

 単発の仕事受託でなく、特定の事業所さんと継続的に仕事をしていますので、そのあたりの信頼関係や帰属意識は強いですね。かなり会社の内部的なことまで教えてもらえますし。例えば、自分の作成したWEBを経由して今まで取引のなかったところや大手から引き合いが来たりすると最高に嬉しいですよ。「この会社に役立ちたい」、という気持ちは仕事単位の受注よりも強くなりますね。


  Q:SOHOのベテランから、あとへ続こうと学習中の方々にアドバイスをお願いします。
 

 そうですね、ITに限らず、勉強できるときに何でも貪欲に吸収してほしい。雑学は意外と人付き合いをするときに役立つものです。やはり、最終的には人と関わっていくことが大事ですからね。



 

株式会社エスエイエス

株式会社エスエイエス 
http://www.sascorp.jp

 

クライアントである 株式会社エスエイエスの佐藤音彦社長様より

 ある日新聞を見ていて沖電気さんの障害者の在宅勤務例が目に留まったんです。「うちでもやれないか」と思い、新聞社に電話をして、渡辺さんがSOHO登録していた東京コロニーさんと出会えました。私どもは小規模ですから、WEBの更新など作業量は多くはない。だから職員として一人抱える形にはしたくなかったし、かといって、担当者の顔が見えないような外注も嫌でした。今のように同じワーカーさんに直で継続して頼める形態はベストですね。打ち合わせなどはわたしがお宅に伺っていますので確かにちょっと負担もありますけどね。
 渡辺さんは能力が高い方なので、今後はもっと色々提案してほしい。もと営業マンですから、電話営業とかね、期待しています。


 

インタビューを終えて:

 ご自身の体調管理を第一に、時間の使い方を確立されている渡辺さん。以前に何度もあった就職の話を蹴って、今のリズムやゆとりを保っておられます。それが長く働くための秘訣なのですね。また、ワーカーさんとクライアントさんとのこうした良縁を結んでいくことが我々の大切な機能であることを再認識いたしました。

  空いた時間に楽しんでおいでの株の情報も含め、大変参考になったインタビューでした!

[堀込]




     日本SOHOセンターのメルマガとイベント

 

 日本SOHOセンター(JSC)は、SOHOの社会的基盤整備、権利擁護などを、相互扶助を基にSOHO自身の手で推進する非営利団体です。職能開発室も、SOHO支援事業やグラフィック・デザイナー養成講座などで日頃お世話になっています。今回は、JSCが発行しているメルマガと、SOHOに役立つモノを表彰するイベントに関してご紹介します。

[鶴田]

 

  JSCメルマガ SOHOジーン
メルマガ「SOHOジーン」

○メルマガの連載

 このたび、JSCが発行するメルマガに「障害者がSOHOする時。〜その働き方と支援〜」という連載をさせていただくことになりました。企業への就職、福祉施設での就労など、障害者の働く場は様々です。職能開発室では、在宅で仕事を請け負いながら働いている方への支援も行っています。そうした支援の中で感じたことや今後の目標、あるいは実際に仕事をしている方へのインタビューなどを掲載し、障害者がSOHOをする上での課題について考えていきたいと思っています。ご関心がありましたら是非ご購読いただければ幸いです。

 

  SOHO AWARDS 2004
SOHO AWARDS 2004

○SOHO AWARDS 2004

 SOHOとして仕事をしていく上では、様々なモノやサービスにお世話になっているかと思います。そこで、SOHO自身が仕事や生活の中で「これ、いいぞ」と思うモノを推薦してもらい、ノミネートされた中から「もっともSOHOに役立ったモノ」を表彰するというイベントです。ジャンルは問わず、ソフト、ハード、書籍、企業、団体、商品、個人、Webサイトなど、何を投票しても構わないという企画になっています。推薦の受付は、2004年3月までJSCのWebサイトで行われています。職能開発室も、このイベントの選考委員にさせていただいています。選考の結果は5月に公開される予定ですのでお楽しみに。




     養護学校でビジネスが学べる!? パートU

 

 Vol.28で「養護学校でビジネスが学べる!?」と題してご報告しました千葉県四街道養護学校の研究班が、去る2月10日に最終報告会を行いました。

 平成13〜15年度、文部科学省研究開発校となった同校では、「重度の障害のある生徒の就労に向けた職業教育に関する研究」に取り組み、病弱学級の生徒さんを中心に、新しい教科「ビジネス」の実践と、卒業生の働く場、ワークショップ「まごころ」の試行を行ってきました。
  (その詳細はVol.28をご参照ください)
  http://www.tocolo.or.jp/syokunou/triangle/vol28.html#book1

3年間の成果として挙げられたのは、
○コンピュータ操作技術の向上
  生徒の活躍の場が拡大・学習意欲の向上
○自己効力感の高まり
  進路に対する考え方の変化・仕事に対する認識の変化
といったポイントでした。

 シンポジウムでは実際に病院から通って仕事を行っている「まごころ」の代表と副代表が就労体験を語ってくださいましたが、そのお話し振りからも、毎日の生活の質が大きく変化したことが伝わってきました。また、フロアの他校の教員の方からも、入院のままの就労の問題点や具体的ケアなど、たくさんの質問用紙が出ていました。

 今回の研究は、病弱学級という難しい環境の中で、あえて「自分が働く」ことについて生徒自身が学び、考え、更に学校の中でワークショップとして実践していくという、実に稀有な取り組みでした。ここで実証されたことをどう世のしくみに反映できるか、という課題は、我々就労支援の立場のものはもちろん、病院や生活施設などの支援のあり方を問うことにもつながっていくでしょう。今後は、「まごころ」さんと仕事や学習の面でも連携していければよいと考えています。

[堀込]





     今年も奮闘!グループワーク

 

 IT技術者在宅養成講座(在宅パソコン講習)のプログラマコースでは、今年もグループでの共同作業(以下グループワーク)を行いました。課題は、ACCESS+VBAを使用した「宅配ピザ店システム」の構築です。

 グループワークのメンバーは、講習生2名と講師2名。講師のうち1名は上司(プロジェクトマネージャ)役、もう1名は顧客役を担当し、実際の仕事にできるだけ近いやりとりを体験してもらいました。

 作業の打合せは、主にメーリングリストやテレビ会議システム(Sametime)を使用しました。メールでの意見交換は、微妙な表現が難しい、時間差がある、などの問題があり、行き違いや誤解なども発生しました。しかし、在宅勤務ではメールでの意思疎通は必須のスキルになるため、貴重な経験をしていただけたのではないかと思っています。

以下は、グループワークを終えた講習生の感想・反省です。
・メール・電話とも比較的綿密にやり取りが出来た。
理解しやすいメールを書くことが大切。(タイトルの付け方も気をつける)
もっと全体を見渡し、チーム内の作業スピードなどを早いうちに見極められる様にする。
・万が一、身体を壊した時の対応策を身体を壊す前にたてておく。
・こだわりと妥協のバランスも大切。
・慌てない、急がない。(結局ミスを生む)

[岩田]

  ピザの注文画面

ピザの注文画面




     おめでとう!

 

◆マイクロソフトオフィススペシャリスト試験(MOUS) Word 2002 合格

 K.Y さん  疾患 1種3級
  (IT技術者在宅養成講座 21期生)

 M.M さん  慢性関節リウマチ 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 21期生)

 Y.T さん  頚椎損傷 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 21期生)

◆初級システムアドミニストレータ合格

 A.Y さん  疾患 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 20期生)



 

編 集 後 記

 2月14日〜15日の2日間、高齢・障害者雇用支援機構主催の「障害者ワークフェア」に出展しました。福祉施設でつくったクッキーなどの販売、障害者を雇用している企業の紹介、あるいは支援機器などがいろいろと出展されました。職能開発室がこのような場に出展するのは初めて(?)ですが、私たちの事業を広く知ってもらうには、こうした機会を活 用していくことも重要だと改めて実感しました。

[鶴田]



 

■トライアングルの目次へ

■職能開発室のトップページへ



社会福祉法人東京コロニー 職能開発室