重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.30 CONTENTS  2003.11(平成15年)

   

■「在宅勤務の頼もしいツール」

■障害のある方の在宅勤務事例

■短期IT講座のスクーリングを開催しました

■障害者ITサポートセンターをご存知ですか?

■Javaの学習グループ「智恵の和」活動中!

■おめでとう




     「在宅勤務の頼もしいツール」

 

 情報通信技術の進歩は確実に障害者の方の雇用の幅を広げています。
 今回ご紹介するユビランド知的財産綜合事務所様のケースもその一つ。こちらの事務所では、クライアントのパソコンをブロードバンドで接続することにより、遠隔会議システムでパソコン画面を見ながら特許申請や知的財産に関する相談を行う事業の展開を始めています。そして、そのネットワークの中では頚椎損傷(身体障害者手帳1種1級)の障害のある小林秀浩さんも特許事務と格闘しながら在宅で活躍中です。

 

 事業主である弁理士星野さんはここにいたった発想をこう話してくれました。

  「もともと電機メーカー勤務でしたからIT等の技術経験がありました、そこに、特許というか知的財産への興味がわいてきまして。たまたま以前障害者の方の施設でボランティアをした経験が加わって・・・・、ネットワークの発達を機会に、それらを全部融合することを思いついたんですよ(笑)」。

 とはいえ、小林さんは特許事務は初めて。打ち合わせはもとより、教育も遠隔会議システムをフルに用いての2人3脚です。

 
遠隔会議の画面遠隔会議の画面
特許の打ち合わせ状況 
画面の映像は小林さん
 

 「在宅雇用がスタートして5ヶ月めですが、遠隔会議のシステムは、もうなくてはならないものですね。ファイルを共有し、その場でお互い確認しながら編集できる。この種のツールは今後セキュリティのレベルもあがってくるでしょう。次の段階として、わたしは弁護士や会計士ともネットでつなぎ、クライアントさんをたらいまわしにしない、特許相談のワンストップサービスを検証中なんです。こうした環境で働く時、障害者はもはや障害者ではないですよ。少なくとも小林君がわが社において障害者でないことは確かですね」。

 まさにITが道具となり、在宅勤務では不可能と思われがちな教育や打ち合わせの多い業務を可能にしています。そこには、「技術」というものを過信することなく、正確に評価した上で積極的に利用する雇用主の方のセンスが光っていました。
(当ケースの雇用事例の詳細は、次号の小林氏のインタビューで掲載予定です。お楽しみに!)

[堀込]

 

遠隔会議システムを使った特許相談イメージ


遠隔会議システムを使った特許相談イメージ
ユビランド知的財産綜合事務所とお客様のパソコンをブロードバンドネットワークで接続することにより、CCDカメラやヘッドセットを使いパソコンの画面を見ながら特許申請や知的財産に関する相談を行うことができます。



     障害のある方の在宅勤務事例

 

金原 平太 さん

(頚椎損傷 1種1級)
(在宅パソコン講習17期生)

NECソフト株式会社
パーソナルソリューション事業部
事業推進グループ

 

 
金原さん
金原さん
   今号は、システム開発の会社で在宅勤務をなさる金原平太さんをご紹介します。NECソフト様はVol20とVol24につづく3回目のご登場。様々な部署で障害のある方たちが多様に働いておられます。今回はどんなお仕事なのでしょうか。

  Q:まずはお仕事について簡単にお聞かせください。
 

 2年前に就職しましてずっと在宅勤務です。仕事は部署内の月次処理と設備管理が中心です。月次処理では売り上げ、営業損益、外注費からはじまり、社員の残業の計算なども行っています。設備管理のほうは職場内の備品の管理をおこなっており、リース・レンタル機材など期限が切れるものについて継続か返却かなどを部内のマネージャーとやり取りし結果をまとめて統括部署に送ります。ツールはほとんどEXCELを使用していますね。

 


  Q:細かな業務でらっしゃいますね。在宅で上記のような業務を行う際、面白くお感じになる点はどんなところでしょう。
 

 月次処理のほうは数値データのみでなく、分析しやすいグラフとしてレーダーチャートなんかに描画して送るんです。そしてそれは最終的には社員全員が閲覧できるよう職場内のネットワークに掲示されます。作ったものが結果として見えるというところはやりがいがありますよ。

 


  Q:月次処理が主たる業務のひとつということは、お仕事に繁忙期とそうでない時期ができたりしませんか?
 

 そうですそうです。比較的空いてしまう日もあります。在宅勤務ですからそこは学習にあてるとか、新しい情報を獲得する時間を作るなど、自分で考えて時間を管理することが必要です。職場でも勉強を奨励してくれており、在宅で受けられるWEBの講座などを受講させてくれたりします。資格取得等それに見合った成果もそろそろ出していかないといかんのですが(笑)。

 


  Q:資格取得の話が出たところで、現在の金原さんの課題は何でしょう。
 

 TOEICをきっちり勉強しようと考えています。仕事では情報処理や英語の能力が求められるので、是非、積極的に挑戦したいと思っています。それともうひとつは在宅勤務でのコミュニケーションです。メールを主に利用していますが、それだけでは限界があります。私は電話下手なので電話連絡があまり好きではないのですがこのあたりももう少し自分なりに改善してみようと思います。

 


  Q:最後に「仕事を始めてよかった」と実感なさることはどんなことでしょう。また、後に続く方にアドバイスがありましたらお願いします。
 

 仕事を始めて強く感じたのは仕事による拘束時間があり生活にメリハリがあることですね。明日仕事があるから早く寝る、早く起きる、当たり前ですがそのリズムが大事なんだとわかりました。あと、これも当然ですが、給与をいただけることは嬉しいですね(笑)。競馬やtotoなど、自分の稼いだお金を有効に使うことができますし(笑)、意外と貯金も好きなんですよ。

 アドバイスですが、自分に下りてきた仕事、今できることをとにかく精一杯こなすということからはじまるんじゃないでしょうか。気負わず等身大で必要とされていることをきちんとやる、そこからでよいのではないかと思っています。


 

NECソフト株式会社のウェブサイト

NECソフト株式会社 
http://www.necsoft.co.jp

 

インタビューを終えて:

 飄々として気負わないその姿勢と、淡々と業務を説明してくださるその口調は、「頑張り」を前面に出さない講習生時代の平太さんそのものでした。でも、今後のスキルアップを語る横顔には、少しだけ覚悟の表情も…。

 上司の方との面接によると、先々お仕事の幅も増えるとか。これからも体調を整えて頑張ってください。totoの一発をお祈りしております。

[堀込]




     短期IT講座のスクーリングを開催しました

 

 職能開発室では、在宅のまま短期間で特定の技術を学べる短期IT講座を2002年度から開講しています。現在はWeb作成の基礎2ヶ月コースと応用3ヶ月コースを実施しており、これまで3回ずつ、のべ約30名の方に受講していただきました。

 基礎コースでは、HTMLの基礎と、Web作成ソフトであるDreamweaver、Fireworksの基礎的な操作方法を学習します。市販のテキストの他、課題を2つほど準備し、実践的な知識も身につけられるようにしています。

 応用コースでは、より実践的な内容に加え、2回のスクーリングや、複数の受講者が共同で作業を進めるグループワークも重視しています。9月4日には受講者5名でスクーリングを開催し、それぞれが課題として制作したWebサイトのプレゼンテーションや意見交換を行いました。今回の課題のテーマはそれぞれの自己紹介ページです。受講者自身が利用している福祉機器やパソコン環境を写真で紹介するページや、フリー素材を使用して綺麗に仕上げたページなど、一人ひとりの個性がとてもよく表現されていました。

 また、グループワークでは、2つのグループに分かれて、それぞれ仮想の学校や団体のWebサイトを一から制作していきます。在宅で独学しているとどうしても自分の枠の中で物事を考えてしまいがちですが、他の方の制作物を見て意見を出し合うというのはとても良い機会になると考えています。

 この講座を修了した方々は、就職を目指す方、在宅ワーカーとして請負の仕事をされている方、より高度な勉強をしている方など様々です。職能開発室では、今後もこうした多様な就労や学習のご要望に応えられるサービスを提供していきたいと考えています。

[鶴田]

 

●受講者の中川栄一さんから一言●

 私は、頚椎損傷で、レベルはC4です。パソコン歴は3年、「ビアボイス」と「できマウス」で操作しています。何か新しいことをやってみたかったのと、これをきっかけに仕事ができればと思い受講しました。
 何をするにも時間がかかるので大変でしたが、時間に制限のある中で、人とかかわりながら学習できるので、自習するより格段に成果が上がると思いました。
 何か自分に合った仕事が見つかればよいのですが、何かしらの形でも、パソコンを利用して世に貢献できればと思っています。


 

受講者の塩浦睦美さんの自己紹介ページ
受講者の塩浦睦美さんの自己紹介ページ




     障害者ITサポートセンターをご存知ですか?

 

 障害者ITサポートセンターは、デジタル・デバイド(情報格差)を解消するため、IT利用の総合的なサポート機能を備えた拠点として、全国に設置される予定の機関です。
  (平成16年度の厚生労働省の予算概算
  http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/04gaisan/syuyou3.html#7

具体的な事業の内容は、各自治体の状況によって違いはありますが、基本的なメニューには
  ・パソコン、周辺機器等の情報通信機器の展示、インターネット等が体験できるコーナー
  ・パソコン等情報通信機器の利用方法、支援機器の相談
  ・障害者の方対象IT講習会
  ・パソコンボランティアの研修、登録、派遣
などがあげられています。

 すでに大阪や宮城などではスタートしており他県もこれに続く模様。障害者のIT利用を保障する、これまでにない初めての機関ですから、ハードウェアや箱ものだけで終わることなく、じっくりと時間をかけても、地域の連携を大事にする場所となってほしいものです。当事者の方を中心に、リハビリセンターや病院の関係者、またボランティア等、あらゆる方にとって活用しやすい資源となることを希望しています。

[堀込]





     Javaの学習グループ「智恵の和」活動中!

 

 02年10月より始まったJava言語の自主学習グループ「智恵の和」は、活動開始から1年が経過しました。この間、講習会は15回を数え、サポータの輪も次々に広がり、総勢30名を超えるグループとなりました。

 Javaの「いろは」から始まった講習会も、最近はデータベース(JDBC)へのアクセスやEJBの概要といった高度な内容に発展しています。受講生もついていくのに必死ですが、なぜか欠席者はほとんどなく、送迎サービスを頼んだり電車を乗り継いだりして、いつもの顔が揃います。第一線の技術者と交流をもち、飛び交う技術談義のシャワーを浴びる、そういった場に身を置くこと自体に大きな価値を感じているように思えます。


 

 2年目の講義では、再度基礎から復習をしていくことになりました。1年目ですでにJava認定資格やUML技術者認定に合格した人も出ましたが、2年目ではさらに多くの人が合格できるように試験対策も含めた内容になります。

  なお、新たに講習を受けたい方、サポータとして参加されたい方は、以下のホームページを通じてご連絡ください。

■智恵の和のホームページ
  http://red.japanlink.ne.jp/chie/

[岩田]

 
「智恵の和」講習会の様子
講習会の様子


     おめでとう!

 

◆静岡沖電気株式会社に勤務決定

 A.Y さん  疾患 1種1級
   (IT技術者在宅養成講座 受講中)



 

編 集 後 記

 10月に行われた国際福祉機器展に行ってきました。今年は、誰が使っても便利、かわいいと思えるユニバーサルな商品が増えた印象。こういう商品がもっと市場に出回って、買いやすくなるといいですね。

[岩田]



 

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