重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.26 2002.7(平成14年)

事業主様へ 職業紹介時の雇用関係給付金取扱い事業者になりました
障害のある人の在宅雇用事例
在宅就業ポータルサイト協議会への参加
在宅短期IT講習がスタート
「日常生活用具給付」がワープロからパソコンへ!
おめでとう!



事業主様へ
  職業紹介時の雇用関係給付金取扱い事業者になりました

 職能開発室では、平成11年度より障害者の職業紹介事業を開始しております。主に重度身体障害者の在宅勤務などを対象に、毎年少数ではありますが、企業と働きたい方との間でパイプ役を努めてまいりました。

 このたび、助成金制度の改正(H13.10.1)により、雇用関係給付金取扱い事業者として新たな標識を掲げることとなりました。平たく申しますと、職能開発室を通して障害者の方を雇い入れた場合も、職安を経由したと同様に、事業主様はその社員の給与の一部など、助成金を受給していただけるようになったということです。

 今、日本は未曾有の不況の中で自ら再構築せざるを得ない状況に来ています。リストラの一方でワークシェアリングや退職者活用制度など、新しい人材活用へ事業主様も工夫を重ねておいでのことでしょう。こんな時代だからこそ、「ピンチはチャンス」。短時間勤務やパート正社員など重度障害者の方との共働の可能性は大なのではないでしょうか。これからも求人求職双方にとって前向きな働き方を提案し、誠実に仲介を行っていきたいと思いますので、どうぞご活用いただけるよう今後ともよろしくお願い申し上げます!。

[堀込]

 
紹介の取り扱い範囲
サービス内容
手数料
  • 専門的・技術的職業
  • 事務的職業
  • 求人、求職ともに、登録後適した相手があった際のご紹介
  • 紹介の前後での、ご相談、事例の紹介
  • 必要に応じた関係機関のご紹介
  • 求人企業の要望による必要スキルの教育 等
求職者は一切無料です。
求人企業は、就職が決定した場合には、成功報酬として、6ヶ月間の雇用について支払われた賃金の10%に相当する額を申し受けます。また、就労を容易にするため、及び継続のための相談・支援や技術教育はケースによりますので、お気軽にお問い合わせください。


障害のある方の在宅雇用事例
高ア 賢啓さん

(脳性麻痺 1種1級)
(在宅パソコン講習第16期生)

有限会社アサップシステム 勤務

高ア 賢啓さん

 今回は、このシリーズでは初めての「部分在宅勤務」の事例です。インタビューを受けてくださったのは、仕事を始めてまだ1年の高ア賢啓さん。通勤と在宅を組み合わせた働き方ということですが、社会人1年生の奮闘記はいかなるものでしょう・・。

 

Q:現在のお仕事について入社時期、仕事内容、勤務形態などをお願いします。

 平成13年の4月入社です。うちの会社はソフトからハードまで幅広く手がけていまして、今やらせてもらってるのは、マイコンを動かすソフト作成です。C++ビルダなどツールも活用してC言語で書いています。勤務は基本的には通勤ですが、水曜日だけ在宅勤務にしてもらっています。この日は自宅にPTさんに来てもらって1時間だけ体を動かす訓練をします。体の筋肉をこうして動かさないと機能を維持できないので、在宅を認めてもらえたことは本当によかったです。

 
Q:車椅子で通勤なさっているとのことですが、会社で考慮していただいていることはありますか。

 手伝ってもらってることはたくさんあります。まず仕事の準備時のセッティングや帰宅の際の片付け。仕事中にプリンタに出た印刷物を取ってもらうこともありますね。また、トイレも介助をお願いしています。周りの方はこうしたことをごく普通のこととしてやってくださっているので、本当に感謝しています。

 それから、作業環境も整えてもらいました。机の下の足置きも職場の方が作ってくれたんです。スロープを用意してもらったり、机の移動、配置換えなども。また、自宅でも在宅の日に仕事がしやすいように、ノートパソコンを与えてもらい整備しました。

 
Q:電動車椅子での通勤はご苦労もあると思いますが、通勤のメリットはどんなところでしょう。

在宅に比べ、やはりコミュニケーションが取りやすいことです。すぐにわからないところを聞けますし、技術者の皆さんの中にいるだけで もすっごい経験になっています。考え方や社会のしくみ、この会社に来て初めて分かったことだらけです。

 
Q:そんな中で失敗や課題があったらきかせていただけますか?

 課題だらけですよ、今の段階では(笑)。まわりが見れなくて自分の仕事の中に没頭していくだけ。ですから、納期を正確に守れないことも多くて。遅れる前にしなくてはならない報告も、未だにタイミングが測れない。高い技術を持った皆さんの足を引っ張らないようにしなきゃ。そう思うと甘えたり迷惑をかけることが怖くて余計思ったことを言い出せなくなったりします。面白いギャグなんかもまだ言えないんですよねぇ(笑)。

 
Q:現在、第一の試練の時といったとこでしょうか。そんな今の高アさんから、あとに続く方々へ何かアドバイスいただけますか?。

 では、僕にできる範囲で。在宅で一人で勉強してると閉鎖的になりがちですよね。そういう時は、なるべくそれ以外のこととの切り替えを大切に。僕もオフは本屋さんに行ったり、街づくりのグループなどに積極的に参加して、楽しいことを考えるようにしています、といっても今はまだうまく切り替えできていないんですけど・・・(笑)。

 仕事をして、初めて色んな方とのコミュニケーションの機会ができました。まわりの人から一人の社会人として見てもらっているのを感じます。それに応えるためにも、僕も周りが見えるように頑張りたい。皆さんも外に出て、そういう目標を作ってもらえれば、と思います。

 

◎上司の一言 アサップシステム 代表取締役 浅川貴史 様  

 頑張っていますが、仕事の面ではまだまだ。この業界、ものになるには最低3年必要ですからね。その前に社会人としてうまくやっていくことが今の課題でしょう。障害をもつ方の中には、あまり他人とぶつかることに慣れていないケースがあるように思います。迷惑をかけることを怖がったり、衝突を避けていては成長はないのですから、職業訓練機関などでもこの点をトレーニングしてほしい。企業内実習やインターンシップなどが効果的だと思いますよ。また一方で、社会の中で挫折した時のサポートは、古巣の福祉機関や施設にも協力してほしいと希望しています。

アサップシステム

アサップシステム http://www.asap-sys.co.jp



◎インタビューを終えて:


  「障害者雇用というスタンスではなく、一社会人として受け入れているだけ」とおっしゃる浅川さんですが、通勤はかなり難しいと思われた高アさんがこうして奮戦できているのは、会社の配慮のおかげでしょう。お住まいから会社が電車で駅一つ、という好条件もありますが、週一回認めていただいている在宅日や同僚の方の職場での支援など、サポート要因が大きいことを感じます。高アさん、今が正念場、周りの方からいただく叱咤激励を大事にして、めいっぱい悩んでください。いつでも泣ける場所をこちらにも用意しておきますからねー!。

[堀込]



在宅就業ポータルサイト協議会への参加

  SOHO(在宅就労)は、重度の障害で外出や長時間の仕事が困難な方や、自分の専門分野で勝負がしたいという要望に応えられる働き方として期待を集めています。しかし、個人で仕事を獲得することは決して容易ではないため、営業や事務処理などを仲介する機関(エージェント)の充実が望まれています。

 こうした背景から、SOHOの方々が能力や希望条件に合ったSOHO仲介機関を見つけることを支援するとともに、SOHO仲介機関がSOHOの募集や発注元企業の確保に役立つことを目的としたポータルサイト「SOHOテレワーキング」が立ち上がりました。

 このWebサイトは、財団法人社会経済生産性本部が事務局となり、様々な仲介機関や学識者等で構成された「在宅就業ポータルサイト協議会」が運営を行っています。この協議会には、障害者に関する支援機関として東京コロニーと特定非営利活動法人We CAN!が参加しています。今後、年2〜3回のミーティングを通して、ポータルサイトの充実が図られていく予定です。

 このポータルサイトでは仲介機関の基本的な運営主体情報から仲介に関わる詳細情報まで網羅されており、「居住地域」「SOHOタイプ」「業種(業界)」「仲介タイプ」「支援サービス」といった検索キーを使って仲介機関を検索することができます。

 規約に同意すればどなたでも無料でご覧いただけますので、なかなか自分に合った仲介機関が見つけられないというSOHOの方は一度ご覧になってはいかがでしょうか?

 障害者への仕事の仲介を目的とした支援団体は各地で少しずつ増えてきていますが、仕事の確保やワーカーのスキルアップなど難しい課題も多くあります。私どもとしましても、本協議会への参加をはじめ、障害者の在宅就労に関する相談や支援の充実を今後も目指していきたい と考えています。

[鶴田]

SOHOテレワーキング

◆SOHOテレワーキング:http://www.soho-t.org/
◆社会経済生産性本部 :http://www.jpc-sed.or.jp/



在宅短期IT講座がスタート

 職能開発室では、ITの基礎から実践までを幅広く学習してもらうために2年間の「IT技術者在宅養成講座」を実施しておりますが、ここにきて、短期間で実践的な技術を集中的に身につけられる講座への要望が高まっていました。そこで、本年6月下旬からWebの基礎を在宅で学べる2ヶ月コースの講座をスタートしました。今回の受講者は6名で、普段はそれぞれ市販のテキストで学習を進めていただき、日々の質問等はインターネットでお受けすることにしています。本講座の詳細は次号のトライアン グルでお知らせする予定です。

[鶴田]

短期IT講座


「日常生活用具給付」がワープロからパソコンへ!

 身体障害者福祉法に定められた重度身体障害者「日常生活用具給付等事業」において、これまで給付の対象となっていた「ワードプロセッサー」が平成14年4月より「パーソナルコンピュータ」に改められました。これまで多くの障害者団体等から要望の出ていた「日常生活用具にパソコンを!」の声がようやく実現された形になりました。

 また、昨年度より各自治体で実施されている「障害者情報バリアフリー化支援事業」では、周辺機器やソフト類の購入費の一部が助成されます。  これらの制度をうまく活用して、スキルアップに役立てたいものです。なお、制度の詳細についてはお近くの福祉事務所等にお尋ねください。

[岩田]

 
内   容
対  象  者
助 成 額
日常生活用具給付等事業 パーソナルコンピュータの給付 上肢障害2級以上又は言語、上肢複合障害2級以上(文字を書くことが困難な者に限る。) 自治体によって異なるが 概ね最高118,500円
障害者情報バリアフリー化支援事業 障害があることにより必要となる周辺機器やソフト類(特殊なマウスや画面拡大ソフト等)の助成 視覚障害者又は上肢機能障害者であって、その障害の程度が1級もしくは2級の方。 (所得制限あり) 購入費の2/3
(限度額10万円)


おめでとう!

沖ソフトウェア株式会社に勤務決定

 ◆S.T さん  頚椎損傷 1種1級
   (在宅パソコン講習第18期生)

株式会社東京放送(TBS)に勤務決定

 ◆K.K さん  脊髄炎 1種1級
   (在宅パソコン講習第18期生)

初級システムアドミニストレータ試験  合格

 ◆K.S さん  疾患 1種1級
   (在宅パソコン講習第18期生)

 ◆K.T さん 疾患 1種2級
    (在宅パソコン講習第19期生)

基本情報技術者試験 合格

 ◆K.R さん 疾患 1種1級
   (在宅パソコン講習第19期生)

マイクロソフトオフィスユーザスペシャリスト(MOUS)試験 Word2000一般レベル 合格
 ◆T.E さん 疾患 1種1級
   (在宅パソコン講習第19期生)


編 集 後 記

サッカーW杯まっ只中のある日、「余っているチケットをインターネットで予約できる」といったTV報道がありました。すぐさま芸能レポーターのNさんが大きな声で怒った、怒った、「皆がインターネットを使えると思ったら大間違いだ!! 不平等だぞ!」。まもなく電話でも予約できることが知らされましたが、こうしたデジタルデバイドが表に出ることは意外にありそうでないことですよね。電子投票も始まり、全ての人が使いやすい情報ツールを個 別に保障されることが急務になりました。
[堀込] 


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