重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.25 2002.3(平成14年)

障害者を対象にしたIT講習会に係るアンケート調査
障害のある方の在宅雇用事例
SOHOグループの立ち上げ Vol.5
書籍紹介 「SOHO新時代が始まった」
スクーリング「インストラクターの仕事研究」開催
企業実習、やってます!−企業のサイトを初めて作る−
おめでとう!



障害者を対象にしたIT講習会に係るアンケート調査

 昨年末、日本障害者協議会(JD)情報通信ネットワークプロジェクトによって、関東地方1都6県を対象に「障害者を対象にしたIT講習会に係るアンケート調査」が行なわれ、12月8、9日に開催されたPSVC2001(パソコンボランティアカンファレンス2001)でその内容が報告されました。(関東全域対象〔単位;自治体数〕発送数471 回収数248回収率53% 2001.11.22時点での回収分)

 印象深かったのは、障害者の受け入れの実情です。関東全域でも、「障害者対象」のIT講習を行なっているのは、回収できた自治体の中のわずか23%でした。アンケート対象が都市部のほうに偏っている実態を考慮すると、全国調査では更に低い数値になることが予想されます。また、来年度の実施については、検討していない自治体が圧倒的に多いようです。

 また、肢体不自由の障害、聴覚障害の受け入れは進んでいますが、知的障害、精神障害になると前者と比べ特別な配慮や福祉的知識を必要とするため、ぐっと受講者も少なくなっています。

 しかし一方では、期待できる結果も表れており、自由記述からは、どの自治体も終了後の継続をポイントとしていることがうかがわれました。具体的フォローとしては、「自由に利用できるパソコンの常設場所の提供」がトップであり、デイサービスとしてこれらを位置付けたり、市町村障害者生活支援事業の中で取り組むという意見もありました。

 ここから見えてくるのは、方法の確立されていない中で、限られた予算や情報をどう効率よくまわして継続させていくか、ということが全て自治体の知恵や努力にかかっている事実です。パソコンボランティアなど地域のリソースとタッグを組めるかどうかや、テキスト作成、補助具の資料等を各地で必要な際に取り出せるような情報のセンター化が望まれます。

[堀込]
  ◆関東全域
  本年度の受け入れ    (単位;自治体数)
   障害者対象IT講習実施
57
23%
   一般講習会で受け入れ実施
97
39%
   障害者受け入れを検討中
23
9%
   検討していない
65
26%
   無回答
6
2%
       
  来年度の予定
   実施する
11
4%
   検討中
71
29%
   検討していない
154
62%
   無回答
12
5%
       

障害のある方の在宅雇用事例

OKIネットワーカーズ樗木 次男

(疾患 1種1級)
(在宅パソコン講習13期生)

沖電気工業株式会社 
社会貢献推進室所属(OKIネットワーカーズ)


 今回は、在宅勤務を始めて今年で4年目を迎える樗木次男さんの登場です。障害の有無に関わらず在宅勤務自体がなかなか根付かない現状においては、樗木さんのように第2ステップを迎えている方はまだ少数。パイオニアとしての4年目の思いを語っていただきました。

 

 

Q:このインタビューでは在宅勤務4年目という方は初めてなのですが、今までの仕事の経緯などをお願いします。

 はい。入社は98年の6月です。

 入社当初から仕事自体は大きくは変わっていません。HTMLから広がっていきまして、アンケート集計、画像作成などが主でしょうか。使用ソフトの主なものは、HPビルダー、Golive、PhotoShop、Illustrator等です。3名からスタートした私どものネットワーカーズ(障害者の在宅勤務チームの呼称)ですが、今や7名。当初は、早く在宅勤務の環境になれて一つでもできることを増やさなきゃ、という状態でしたが、今は受注量も増えたので、複数プロジェクトに関わっています。リーダー役のプロジェクトもあれば、1メンバーとしてのものもあります。

 
Q:4年間で変わったなぁと思うことはどんなことでしょう?

 まず、昔は「在宅」と聞くだけで暗いイメージがあったでしょ(笑)。

 今は人に話すと「へー」と先進的に受け取られるようです。あと、世の中のネット環境の変化はすごいですね。ブロードバンドになって、仕事のやりとりが変わりましたよ。容量の大きなデータはCD_ROMで交換してましたが、ネットでできるようになりましたね。

 
Q:勤務を始めた当初とご自身の中で変わった事はありますか?

 うーん、全体の流れ、仕事のトラフィックを気にするようになったことでしょうか。先ほども出ましたが、プロジェクトのリーダーを担当すれば、他のメンバーの仕事状況、得意不得意も知らないわけにはいきません。そういう意味では、仕事のネットワークを大事に思うようになりました。これは多分会社に通って働いている方達と少し違うのでは。相手の姿が見えないけど、見えないからこそ気をつける。みんな、朝の他愛のない挨拶メールや週報メールなどから、お互いの状況把握に努めているし、そこから仕事を見ています。
 
Q:なるほど。4年も経てば、在宅勤務が特別なものではなく、皆さんにとっては普通の、当たり前の勤務スタイルなのですね。

 そうですね。在宅だと気持ちの切り替えがきかないとか、色々デメリットも言われますが、多分、それらは偏見もありますし、そこでやらなければならない環境になれば、みんなやっている基本のことです。僕なんかも仕事も遊びも就寝も同じ一つの部屋ですが、朝ごはんを食べて部屋に座る時には「よっしゃー」って気持ちに切り替わりますよ。
 
Q:最後に、次への抱負と、これから在宅就労を目指す方々に何か一言、お願いします!


 抱負というより課題ですね。これだけやればこれだけの結果が出る、というようなさじ加減がやっとわかってきました。やらなければならないことも見えています。あとはこれらをきっちり、信頼性を高めていくことです。「ネットワーカーズに頼んでよかったよ」って言われるための努力をしなくては。もっと周りが見られるようになりたいですね。

 アドバイスといえるほどのものではないのですが、仕事って入ってしまえば自然に覚えていけますよ。就労するためのきっかけ、運、努力はもちろんですが、まず普段からいろんな経験をしておくことが大切。視野を広げることが、仕事の幅を広げ土台を築きます。ということで、僕も週末は映画、サッカー観戦としっかり遊んでいますよ(笑)。

 

★   ☆   ★

◎インタビューを終えて:


  障害者の在宅勤務では取り上げられることの多い沖電気様。早くからコーディネーターの役目の方を置き、勤務者の数も着実に増やしてこられました。今回は4年目に突入するということで、今までのこのコーナーのインタビュー内容とは少し違った、中盤に入った方の貴重な勤務例が聞けたように思います。樗木さんの気負いのない明るいお応えの中に、次のステップを見据えた静かな責任感のようなものも感じられた充実した取材となりました。

 お仕事の後にも関わらず、嫌な顔一つせず長時間応じていただき、ありがとうございました。

[堀込]



SOHOグループの立ち上げ Vol.5

 2001年の2月にグラフィック・デザイナー養成講座がスタートし、現在、1期生と2期生合わせて8名の方が将来のデザイナーに向けて日々勉強を重ねています。1期生はちょうど2年目に入ったところで、1年前に比べて作品のレベルも非常に向上したように感じています。これまでは基礎の学習に力を入れてきましたが、今後は少しずつ実践的な内容を取り入れていきたいと考えています。

 この講座は、あくまでプロのデザイナーをめざすことを目標としており、勉強の成果をいかせる仕事の確保が今後の大きなポイントになってきます。職能開発室ではこれまで印刷物のデザインにはほとんど携わったことがなく、単独で仕事を受けるのは容易ではありません。



バランスの練習/ルート4矩形 1期生 中村桂子

 

 そこで、講師の方からご紹介いただいた、デザインを専門とする企業数社と協力し、デザインの業務を受注する仕組みをつくるプロジェクト 「TRUST(トラスト)」を立ち上げました。  このプロジェクトは、営業やディレクションを企業の方などに依頼し、職能開発室と共同で顧客を開拓したり、日程管理や制作物の質を高めたりすることが目的です。まだ準備の段階ではありますが、今年の夏から秋頃には稼動させていきたいと考えています。

 この講座ではホームページを開設し、1期生がこれまで制作してきた作品を掲載しています。職能開発室のホームページからリンクを張っておりますので、ぜひ一度ご覧ください。また、今年の秋にはどこか会場を借りて、受講者によるギャラリーの開催も予定しています。

[鶴田]

◆職能開発室ホームページURL  http://www.tocolo.or.jp/syokunou/



書籍紹介 『SOHO新時代が始まった〜個を活かす自分流ビジネス』
            
花田 啓一著/岩波アクティブ新書

 2001年9月に当法人で開催したSOHO研修会でもご講演いただき、そのほか色々な面でお力添えをいただいている日本SOHOセンター(JSC)理事長の花田啓一さんが書籍を執筆されました。

 これまで、SOHOになるためのノウハウが書かれた書籍は多数出版されておりますが、この書籍では、SOHOとは何なのか、在宅ワークやベンチャーとどこか違うのか、そしてSOHOの実態など独自の内容が満載です。

 現在SOHOの方、あるいは今後SOHOを目指される方はぜひ一度ご購読されてはいかがでしょうか?

※日本SOHOセンター(JSC):http://www.nifty.ne.jp/forum/fjsc/



書籍紹介 「障害者とその家族のためのインターネット入門」

障害者とその家族のためのインターネット入門 パソコンとネットワークを活用する人たちの紹介や、入門編として具体的にインターネットを利用するための工夫や道具、また電子メールやホームページ利用上の注意点などがわかりやすく解説されています。これからIT講習を受ける方はもちろん、受けたあとの実践への一助として強い味方になる一冊です。

(全国障害者問題研究会出版部) http://www.nginet.or.jp/shuppan/internet.html



スクーリング「インストラクターの仕事研究」開催!

 パソコンの「インストラクター」とはよく耳にする職業ですが、その種類や専門性はあまり知られていないのではないでしょうか。私どもでは今年度、自治体のIT講習をやらせていただき、そのサブ講師として在宅パソコン講習生が予想以上の力を発揮しています。今回のスクーリングは、それを受けて、あらためてインストラクターという仕事を知ることで職域を広げていければという思いからスタートしました。講師は、企業でのインストラクターの経験をもつ職員(堀込)が担当しました。

 スクーリングでは、まずインストラクターという仕事の内容や資格の種類などを学び、その後与えられた題材で実際に5分間の講習をするというシミュレーションを実施しました。各自緊張した面持ちでしたが、本番さながらの熱の入ったインストラクターぶりを見せてくれました。

 2月からは、講習生の1名がIT講習会のメイン講師としてデビューします。障害のある方々が、プロのインストラクターとして普通に活躍できる日も近いと感じています。

[岩田]

 

〜カリキュラム〜

 1.インストラクターって?

 2.どんな人がインストラクター?
    あると便利な資格って?

 3.講習会を担当するその日まで

 4.講師を体験してみよう

 5.学習法

   


企業実習、やってます! −企業のサイトを初めて作る−

 現在、2年生のアプリケーションコースでは、都内の経営コンサルタント会社の協力を得て、企業実習を行なっています。実習といえども、仕事を依頼されている状況は本番さながら。3月の納期に間に合うよう、現在急ピッチで制作を進めています。

 依頼内容は、クライアントの会社で開発しているパッケージ(ERPの導入のためのノウハウパック)の販促WEBの作成です。すでに導入済みの顧客専用のページや、販促ツールのダウンロードができるページなど注文は多岐に渡っており、なかなか一筋縄ではいきません。さぁ、どんなサイトができあがるやら・・・。

[堀込]

おめでとう!

基本情報技術者試験 合格

 ◆K.S さん  疾患 1種1級
   (在宅パソコン講習第18期生)


マイクロソフトオフィスユーザスペシャリスト(MOUS)試験 Word2000一般レベル 合格

 ◆K.T さん 疾患 1種2級
    (在宅パソコン講習第19期生)


編 集 後 記

 グラフィック・デザイナー養成講座の1期生は、現在、パンフレットや雑誌のデザインをする課題に取り組んでいます。そして、これまで学んだ知識をいかし、SOHOグループ「es-team」のパンフレットを制作していただけることになりました。
 本当に外部の方から仕事を依頼されるのはもう少し先になると思いますが、少しずつ前に進んでいることを実感しています。
(鶴田)    


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