重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.24 2001.11(平成13年)

SOHO諸先輩による初秋の応援歌
障害のある方の在宅雇用事例
SOHOグループの立ち上げ Vol.4
書籍紹介 「パソコンがかなえてくれた夢」 吉村 隆樹
IT講習、やってます
「トーコロBBS」新学習システム完成!

SOHO諸先輩による初秋の応援歌
〜SOHO研修会の開催〜

 2001年9月19日、私どもが支援しているSOHOグループ「es-team(エスティーム)」のワーカーと在宅パソコン講習生を対象に、SOHO実践者からのアドバイスをいただくことを目的にSOHO研修会を開催いたしました。 講演者として、es-teamでSOHOを実践しているワーカー3名と、外部から日本SOHOセンター(JSC)理事長の花田啓一氏、有限会社アリア代表取締役の松本すみ子氏をお招きいたしました。

SOHO研修会の会場風景  花田啓一氏からは、SOHOとはそもそもどういう存在なのか? そして、SOHOの可能性やその実践と課題についてご講演いただきました。 会社員であることが当たり前のように思われている社会では、SOHOとして生きていくことは、ボーナスや労災などの面で厳しい環境に置かれることになります。 SOHOという言葉が一人歩きをし、障害があってもパソコンを勉強すれば仕事に就けるといった安易な気持ちにとらわれかねない中で、「言葉としての意味に惑わされず、実像を見よ」という花田氏の講演はとても迫力がありました。

 考えてみますと、健常者と違い、障害者の場合は体調や通勤の問題でやむをえずSOHOという働き方を選択する方も少なくありません。 そういう意味では、SOHOを選択するかたへの支援もさることながら、やはり企業雇用において障害者が無理なく働ける体制の整備へも、一層声をあげていかねばならないと改めて考えました。

 松本すみ子氏からは、ご自身がなぜ起業という道を選んだのかや、ネットを使って飛躍する人たちの事例などについてお話いただきました。 es-teamでは請け負いの仕事が多いため、体調的に仕事の時間が限られている方にとっては、どうしても納期の問題が出てきます。 そのため、自ら企画して新しい仕事を開拓し、請け負いに比べて裁量の高い仕事を目指すのも一つの選択肢になっていくのではないかと思いました。

 私どもでは今後もこうしたSOHO研修会を開催し、ITに関する技術だけではなく、「働く」ということの意味を一緒に考え、精神面あるいは制度的な部分についても継続的にサポートしていきたいと考えています。
[鶴田]

<講演者のご紹介>

花田啓一氏
フリーランスのライター・編集業。5年前に有限会社ハイパーケイを設立。98年からSOHOの社会的インフラ整備を進める団体「日本SOHOセンター」(JSC)理事長を努める。

松本すみ子氏
有限会社アリア代表取締役。著書に『つまらない毎日なら、好きなことで独立しよう』(明日香出版)があり、2001年7月からは、リクルートのガイドサイト・オールアバウトジャパンの「シニアライフ」にてガイド役を担当する。


障害のある方の在宅雇用事例

NECソフト(株)
浮揚 玲子

(疾患〔リウマチ〕 1種1級)
(在宅パソコン講習16期生)

NECソフト(株)総務部総務グループ 勤務

 在宅勤務の職域としてまず頭に浮かぶのは、比較的仕事が切り出しやすいhtml作成などの技術職。今までに、ここに登場してくださった多くの事例もそうでしたね。

 今回のヒアリングゲストの浮揚さんは、代表的なスタッフ部門の総務職です。どんなお話が聞けるでしょうか・・・。
 
Q:まずは現在のお仕事内容をお聞かせください。

 はい、総務部総務グループに所属しております。

 グループの業務が社内全体の事務的なものなので、統計資料を作成したり、顧客名簿の更新など、Excelでの作業が多いです。 また、業務に必要なことをインターネットを利用して情報収集しまとめて報告することもあったり、社長秘書業務の補助などもあります。つまり、なんでも屋ですね(笑)。
 
Q:仕事のやり方のパターンはいかがなものでしょうか?

 8:30から17:05までが勤務時間で、12:00から12:50までがお昼休憩です。

 朝は"おはようメール"に始まり、夕方は"報告メール"で終了、主任とマネージャーに送ります。「ドコチャンボード」という在籍を知らせる自社のシステムがありますので、パソコンを開けて在籍ボタンを押すと、仕事がスタートです。可愛いネーミングでしょ(笑)。

 グループ会議の際は出社しますが、1ヶ月に何度というようには決まってないです。
 
Q:総務のお仕事というのはこのインタビューでも珍しいのですが、在宅でやりにくいことはないですか?

 そうですね。総務職というのは、まず自らの会社のことをきちんと理解し、そこに自分の考えを持てることが大事だと感じています。 ですから、会社の雰囲気や情報をできるだけキャッチするためにも、コミュニケーションを取る事は自分なりに努力しています。

 グループで集まる機会などは、食事会のようなものもなるべく出る、出社の時はお昼を同僚と一緒に食べるなど、小さいことですが、仕事以外のことで会う時間を大切にしています。 私自身がおしゃべりが好きなだけなんですけど(笑)、普段は家で一人で仕事をしているせいもあって、外へ出ていって人と会って話をすることも実は大事なストレス解消法なんです。
 
Q:なるほど。そうしたことの中で、何かお気づきになることはありますか?

 それはもうたくさんあります。仕事のことはもちろんですが、心の交流というのでしょうか。 自分が思っている以上に、みんなが実は気を使ってくれていること、大切にしてくれていることに改めて気づくことがあります。 そんな時は、自分も感謝の気持ちをメールで送るなど伝える努力をしようと心がけています。 面識がないと、いくらたくさんメールを送っても感じられないことが、一度会っているとすぐにニュアンスが伝わりメールでも関係性を深められる、そんなことってありますよね。

 在宅の場合、ある程度のそうした関係性があればこそ、わからないことはわからないとはっきり言えるように思います。
 
Q:在宅勤務で良かったことは何でしょうか?

 親と離れて暮らしていますので、生活のことを自分でできる時間が作れるということは、私にとって重要です。

 また、電話もかからず自分のペースでできるので、実務作業があまり速くない自分にとっては、集中して行なえる仕事は向いていますね。 お陰でみんなからは「作業がスピーディだ」と言ってもらうこともありますよ。 お世辞も少し入っているとは思いますが(笑)。
 
Q:在宅で働きたい、と考えている後輩の方々にメッセージを下さい。

 私は、病気が発症する以前は保母職で働いていたので、実は10年のブランク後の復帰なんです。 ですが、以前とまったく違う総務という仕事の枠の中で、新たに発見することや関心を持つようになったことも実に多いです。 仕事を通じて、自分と違う世界や自分の思うようにならない世界に出会うことが大変だけど面白いですね。

 働いてみないと実感って湧かないと思いますが、心身ともに「外に出る」ってことが大事なように思います。外に働きかけることが自分に返ってくるんです。
 
Q:最後に、これからの希望や抱負をお聞かせください。

 はい。この夏、会社の企業倫理部会の委員になり、社会貢献グループに属すことになりました。 これからの企業の社会貢献活動について、自分の視点でレポートしていきたい。 やりがいがある仕事だと思っていますから、まずは、とにかく勉強をしたいです。

 上司との対話の中で印象的なものに、これからは"ナンバーワン"でなく、"オンリーワン"となる力を持つことが大切、という言葉があります。 自分にしかない価値というものがあるのなら、まずはそれを見つけていきたいと思います。 復帰できた新鮮な喜びや感謝される喜び、役立てる幸せを忘れずに、だけどプライベートも大切にして、私なりの、私だけの働き方を目指します。

★   ☆   ★

◎インタビューを終えて:

 ヒアリングをしている最中も、笑い声がたえることはありませんでした。 そんな明るさが、浮揚さんの気遣いや実行力の基なのでしょう。 在宅勤務であるにも関わらず、会社の情報や現状をよく捉えておいでです。 スタッフ部門を目指す方にとっては、仕事への姿勢、取り組み方にもヒントが多かったのではないでしょうか。

 新しい職務も増えたとのこと。頑張ってください。
[堀込]


SOHOグループの立ち上げ Vol.4
契約書  SOHO支援事業も立ち上げから1年が経過し、ワーカーとの契約更新の時期を迎えました。 今回は、私どもとワーカーの間で交わしている「契約」についてご紹介します。

 SOHOは社会的な期待や関心も大きくなっている反面、口頭による契約も多く、報酬額や納期等が不明確であるなど、契約をめぐるトラブルの発生も少なくありません。 こうした状況を踏まえて、2000年の6月に、労働省女性局により「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」が策定されました。

 そこで、私どもではこのガイドラインをもとにし、当法人とワーカーとの間で交わす契約書の作成を行なっています。 契約書は2段階で作成し、SOHOワーカーとして登録していただく際の契約書と、個々の仕事毎の契約書を用意しています。 前者は、仕事の依頼方法や秘密保持など基本的な事項について記し、後者は仕事の内容や納期、報酬額など具体的な事項を記しています。

 本契約は1年単位としており、この度、SOHOワーカーの継続を希望する方に対して契約の更新を行ないました。現在、SOHOワーカーとして12名が契約しています。

 こうしたことにより、在宅ワークを安心して行なうことができるようにし、当法人とワーカー間でのトラブルを未然に防止することができると考えています。
[鶴田]


書籍紹介「パソコンがかなえてくれた夢」
吉村 隆樹 (高文研)

 『脳性麻痺ですが、プログラマーやってます』、そんな帯がついた元気な本が出版されました!。著者の吉村さんは、6年前、当トライアングル第5号で在宅勤務インタビューに応じてくださった方で、長崎でお会いした時の温かい笑顔が懐かしく思い出されます。

 著作の中では、幼少から今のお仕事に至るまでの日々や、入力支援のフリーソフト「ハーティラダー」が作られるまでの経緯が熱く、イキイキと描かれており、この道を目指す方はもちろん、そうでない方も軽快に読める一冊です。

 こちらから購入することができます(高文研の注文ページ)。


IT講習、やってます
 この夏より、職能開発室では自治体主催のパソコン講習会を行なっております。 全国的に始まったいわゆる「IT講習」の中の障害者対象のコースです。

 視覚障害の方向けのコースでは、音声読み上げソフト用のテキストを作成し、点字やテープでも内容を配布できるようにしています。 キーボードに突起をつけることや、読み上げやすいホームページの事前調査なども、ちょっとしたことですが、より効率よく講習を受けていただく準備のポイントです。

 肢体不自由の方向けコースでは、マウスやトラックボールをいくつか用意して、ご本人の状態に合ったものを選んでいただいたり、Windowsを使いやすい設定に変更する方法をお教えしたりしています。

 限られた時間ではありますが、受講生の方お一人お一人に、自分にあったPC環境の理解や、あとの生活に活かせる経験をしていただけるよう担当講師は、日々奮闘しております。

 全国では、こうした障害者の方に配慮されたカリキュラムを行なっているところはまだまだ少ないようで、それぞれの自治体の取り組みに任されています。 予算のことはもちろんですが、全国的なガイドラインになるような講習の指針や進め方、その後の講習生さんのフォロー体制の事例などが今後望まれますね。

 職能開発室では、IT講習に限らず、障害者対象の種々の講習会を今後も企画開催したいと考えております(個人向け、団体、企業様向け)。 ご希望、ご相談がございましたら、ぜひご連絡くださいませ。
[堀込]


「トーコロBBS」新学習システム完成!
カリキュラム  このたび、在宅パソコン講習にてオンライン学習の基盤になっている「トーコロBBS」を一新しました。これまで、一部パソコン通信を使っていた学習報告などを完全Web化。ホームページ上で、質問のやりとり、学習報告、課題のダウンロードなどができます。

 システムの開発については、SOHOグループ「es-team」のプログラマ2名(パソコン講習修了生:田中氏、橋沢氏)に発注しました。言語はPHP、データベースにはPostgreSQLを使用しています。

 「未読記事の一覧表示機能」など、従来のパソコン通信での使いやすさを残しつつ、いつでも好きなときに情報を書き込み、取り出せるというWebの利点も最大限に活かせるつくりになっています。

 新しいシステムを運用してみて気がついたことは、仕組みによって講習自体の質も変わるのだということです。たとえば、従来は学習時に発生した質問は、各自の学習報告と含めてフリーフォーマットで書けたため、あいまいな書き方でも許される面がありました。

 しかし、新システムでは、「質問コーナー」に1件1葉でアップロードしなければなりません。そのため、他の人が検索しやすい質問タイトルをつける、内容も簡潔にまとめるといった気遣いが必要となり、大変ではありますが、考えを文章にまとめる良い練習になっていると感じます。

 今後も、使いやすさだけでなく、講習生が能動的に学習できるような仕組み作りを心がけ、さらなるバージョンアップをしていきたいと考えています。

学習システムのサンプルは、こちらでお試しいただけます。('02年3月まで)
[岩田]



編 集 後 記

自治体のIT講習の講師をやっています。初心者の方が混乱しないように、シンプルなストーリーを組み立て、わかりやすく説明をする。これがなかなか大変です。そんな中、活躍しているのが、アシスタントに来てくれている在宅パソコン講習の修了生や講習生。タイミングの良いサポートはポンコツ講師(?)より、ずっと役に立っているようです。
(岩田)    


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