重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.21 2000.11(平成12年)

一人一人が広げよう、IT支援の輪
障害のある方の在宅雇用事例
SOHOグループの立ち上げ Vol.1
「チャレンジド・ジャパン・フォーラム2000 日米会議」開催
「Web作成スクーリング」に参加して
おめでとう!(雇用決定/合格)

一人一人が広げよう、IT支援の輪
−PSVC2000(パソコンボランティアカンファレンス2000)よりー

 新聞、ニュースで「IT」という言葉の踊らない日はない昨今。まるで、これが我が国再生のオール マイティ救世主のように報道されています。もちろん、これがもたらす福音の一つが「在宅就労」であり、障害のある方がデジタルネットワークを道具に仕事を手にすることが可能になったことも事実です。しかし、多くの高齢者や障害者の方にとって、ITの波はあまりにも急激であり、インターネットを使いたくとも、どこに行って、どう相談していいのか途方にくれる方が多いのが、まだまだ現状でしょう。

 10月14,15日の両日、そんな情報アクセスのバリアを市民一人一人が知恵と力を合わせてサポートしていこうと、「第4回 PSVC2000(パソコンボランティアカンファレンス2000)」が、横浜ラポールにて開かれました(注1)。

 1997年の第1回カンファレンスから振りかえると、地域のパソコンボランティア団体の数は飛躍的に増えており、また、その組織のあり方もよりしっかりとしたものになっていたのが頼もしく印象的でした。 そこで語られた大きな話題の一つが、「支援体制の確立・人材育成にかかる予算の裏付け」それがあってこそ、計画のもとに継続的なサポートが可能になるのは自明です。 各団体には、NPO法人化の道を探ったり、助成金の獲得策を練る、など前向きな動きが見えましたが、やはりそれらに加えて「行政と企業の公的責任の明確化」は免れないものでしょう。

 国は、この度、内閣に「情報通信技術(IT)戦略本部」を設け、WEB上で「IT基本法(案)」をオープンにし、一般の方の意見を募集しています(注2)。 9月までの市民からの意見概要が公開されていますが、約80件中15件が高齢者、身体障害者への配慮を含んだ「格差是正の解消」でした。 また、ここには、気になる個人情報保護法の大綱なども掲載されています。 個人レベルでも、こうした動きを積極的にウォッチングし、「自分の意見」をしっかりと持つこと、そしてそれを表現していくことが、これからの我々一人一人に課された大切な「IT支援」なのでしょう。

[堀込]

お土産のガイドブック
PSVC2000 ガイドブック
全国のパソボラ団体のデータベースなどが収録されていて便利
(注1)
パソコンボランティア(略してパソボラ)とは、障害者の方のご自宅に行き、パソコンをネットワークにつなげてご本人が利用できる環境を作るまでをお手伝いする市民運動。日本障害者協議会情報通信ネットワークプロジェクトにより、草の根パソコン通信局をつなげる実験から始まった。 http://www.psv.gr.jp/

(注2)
首相官邸のサイトの中の「IT戦略会議」
http://www2.kantei.go.jp/jp/it/


障害のある方の在宅雇用事例

佼成病院のホームページ
森田 剛文

(頚椎損傷 1種1級)
(在宅パソコン講習15期生)

立正佼成会附属佼成病院
医療情報サービス課 勤務

佼成病院のホームページ

 今回は、都内の総合病院に情報処理担当で就職なさった森田剛文さんの登場です。 院内で発生するデータの処理や、新しい試みであるホームページ作成など、病院の効率化を目指して在宅で取り組む森田さんに、これまでの経緯などを楽しくお話いただきました。
 
Q:病院での在宅勤務というのは、あまり例がありませんね。

 ええ、実は元々かかりつけだった病院が障害者雇用を考えていた時期と僕の講習終了が重なった事も関係しまして、部長に声を掛けてもらえたんです。 在宅講習生として二年間の勉強を終えた春でしたから、先のことを考えあぐねていました。

 まずは、トーコロの担当講師と病院の事務長の間で話し合っていただき、そして事務長との面接。 私に自宅で何ができうるかを検討していただいた結果、今の院内の部分的なシステム構築のお仕事をさせていただけるようになりました。

 
Q:最初のお仕事は何でしたか?

 まず、病院のホームページを作るように依頼されました。プログラマーコースを選択した私は、講習の中では一度もホームページ作成に触れたことがなかったので、実はものすごく不安を抱きながらも、「このチャンスを失うわけにはいかない!」という決意で、毎日、病院からの資料を参考に、必死に取り組んでいたことを思い出します。

 昨今、うちの病院のホームページを見た患者様からの反応があり、非常に嬉しく思っています。 各科の外来担当医表を見てお越しになる方も多いので、先生の変更があった際の更新作業には、非常に気を使いますね。 (上記にアドレスがあるので、ぜひご覧下さい!)

 
Q:現在は、他にどんなお仕事をなさっていますか?

 ACCESSを利用したデータベースの構築が主です。 例えば、放射線科の検査を受けた患者様のデータ等を蓄積し管理していくためのもの。 当然、病院の規定の書式で出力できるように配慮します。 大事なデータですから、不具合が絶対にないようにテストを繰り返し行ない、問題のないことを確認します。

 また、病院に行った時に看護婦さんの方から声がかかると、簡単な技術サポートもしています。 利用していただく方の声を聞くことは、在宅での開発にとても参考になりますね。 そうした声をもとに色々な機能を盛り込むよう努力していますが、知識の少なさからくる失敗も多く、実際一人での作業は苦しい思いをすることもあります。

 
Q:ご自身の技術サポートが身近に受けられないのが課題ということでしょうか。

 そうですね。悩みといえばそうですが、それを嘆くよりも自分がそれを解決する立場なんだと理解しインターネットの活用などで何とか技術を向上させていくよう努力しています。

 何しろ病院という、健康状態を一番理解していただけている環境でもありますし、通院やリハビリに関しても私のペースで進めさせていただけていますので、その環境に感謝して前向きに仕事を捉えていきたいですね。

 
Q:最後に在宅勤務のしくみをお教え下さい。

 雇用契約は、現在1年更新の契約社員です。 9:00〜17:00までの在宅勤務ですが、週に一度2〜3時間程度、仕事の受け渡しや打ち合わせで病院の方に出向きます。 普段、自宅で一人の作業が多いので、仕事とはいえ、日常の話などもできるこの日が楽しみでもあります。 連絡は、日常の作業終了の報告メールと、不明点・追加項目、修正個所の連絡です。

 今後も、頼まれた仕事を、ユーザーの目線で作っていけるように、常に向上心をもって、レベルアップを図りながら取り組んでいきたいと思っています。 応援よろしくお願いいたします!。


★   ☆   ★

◎インタビューを終えて:

 森田さんが担当なさっているホームページをじっくり見ながら、病院に行く前にこうした情報が手に入ると本当に便利で心強いなぁ、と感じました。 通常は「入院のしおり」のような内容は、実際に入院が決まった後で一方的にうかがうというケースがほとんどで、事前に病院を選ぶ段階ではなかなか分かりません。 実際、病院に通うようになっても「心配事の相談」「費用の説明」等々は、忙しく働く看護婦さんには聞きづらかったりするものです。 また、院長さんはじめ先生方のお名前や担当の一覧は、これからかかろうとしてる患者さんにとって安心の根拠の一つになるでしょう。

 こうした病院からの事前の情報提供は、当然、今後の医療機関の選択にかかせないものになっていくと思われますが、これを福祉施設に置き換えてみますと、全く同じことが言えると思います。 障害のある方や児童をかかえる親にとって、入所や通所の前に積極的な施設側の情報開示を利用できることは、これからは恩恵ではなく権利になっていくことでしょう。 我々施設を運営しているものにとっても、今回のインタビューは大変参考になり、色々と考えさせられました。

[堀込]


SOHOグループの立ち上げ Vol.1
 わたくしどもでは、今年度からSOHO(在宅就労)支援事業を開始し、個々の在宅ワーカーへの支援体制づくりを進めています。 それぞれの在宅ワーカーの自立性を重視しながらも、仕事の受注や分配など個人では対応が困難な部分はグループ化することで対応していくことを目指しています。

 このSOHOグループの立ち上げの過程を、今号から連載でお届けします。

◎ ワーカーの募集状況

 メーリングリストやWebページなどでワーカーを募集し、現在まで、ホームページのデザインやプログラム作成、あるいはデータベースの開発など幅広い技術を持った十数名のワーカーが、それぞれの技術を生かして仕事を進めています。

◎ グループ名称とロゴの検討

 グループの顔となる名称をワーカーから募集し、10個の案の中からes-team(Encouraging Soho TEAM、エスティーム)に決定しました。 encouragingには、励ます、元気づける、勇気づけるといった意味があり、それぞれのワーカーがこのグループを通じて仕事の幅を広げてほしいという願いを込めています。

 また、グループの広報活動に役立てるため、グループ内でデザイナーを目指しているワーカーにロゴの制作を依頼しました。 第1案として制作された下表の3種類の中から、ワーカーの意見をもとに現在選定および修正作業を行なっています。(下段は作成者のコメント)

 「元気」というイメージ。SOHOの“個”対“個”があってこそ、成り立つグループだと思いますので、大地を踏みしめてる力強さみたいな感じで作りました。 これが一番インパクトがありそうです。  “e”のマークを葉っぱで作りました。 勢いで作っちゃったのですが、暖かいイメージには合っていると思います。 一番カンタンできてしまったのですが、私個人はかなり気に入っています。  “e”というマークの渦巻きは、お日様の暖かさと、水に小石を投げたように人と人との輪がひろがっていき、芽が育っていくことをイメージしました。 これは一番マークに意味があるかも。

◎ 今後の予定

 今後も、受注業務の拡大や、ワーカーへのスキルアップの支援などを進めるとともに、グループのリーダーを選出して、リーダーを核にした運営体制を構築していきたいと考えています。 次号では、このグループの運営体制づくりについてご報告したいと思っています。

[鶴田]


「第6回 チャレンジド・ジャパン・
フォーラム2000 日米会議」開催

フォーラムの風景  神戸市の社会福祉法人プロップステーション(理事長:竹中ナミさん)が主催するチャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)の第6回大会が、8月30日、31日の両日、東京の京王プラザホテルにて開催されました。

 今回は日米会議ということで、米国国防省のCAPの理事長やスタンフォード大学教授の講演がありました。 CAPは、国防省の先進的な障害者雇用支援プログラムであり、理事長のダイナー・コーエンさんは、ご自身も障害がありながら数々の責任ある任務をこなしている女性で、これまでに1万7,000人以上の障害者に就労支援を提供してきた実績をもっているということです。

 数回のセッションでは、日本を代表するIT企業のトップの方々や、精力的に地方自治体の改革を推し進めておられる著名な県知事の方々が壇上に上がり、それぞれの立場にとらわれない本音の議論が会場の人々をひきつけていました。

 竹中ナミさんの牽引力に圧倒されるばかりではなく、CJFは私達の固定観念を取り払い何かを気づかせてくれる場だと感じます。 「Let's be proud!」のテーマにあるように、すべての人が誇りを持って生きられる社会になるように、私達も共に努力を続けていきたいと思います。

[岩田]
 ※当日の様子などはこちら

「Web作成スクーリング」に参加して
 7月24日、在宅パソコン講習2年生を対象とした「Web作成スクーリング」が開催されました。 2〜3ヶ月に一回の割合で、講師の方々による「スクーリング」が行なわれるのですが、今回は、実際にWeb制作を仕事にされ、障害者も雇用されている(株)スタジオホットスパイス代表 寝占理絵さんが特別講師として来て下さいました。 ホームページ作成におけるHTMLの使用方法に加え、FlashやVRMLなどといったWeb技術を活用したページの作り方など、大変興味深いお話が聞けました。

 Webの魅力と発展、それは私たち障害者、特に重度障害を持つ者達が手に職を持つ手助けとなり、インターネットを使用した在宅就労を可能にします。 またそこで、「在宅講習」で学んだ事や、興味をもって取得した自分の力や才能が発揮できれば、この上ない喜びとなるでしょう。

 実際に現場で働いておられる方のお話は生きた情報として大変貴重ですし、私達に活力を与えてくれます。 これからも、このような「特別講師によるスクーリング」を取り入れていただきたいと思います。

[在宅パソコン講習第17期生 山本 忠夫]

おめでとう!
 株式会社東京放送(TBS)に勤務決定 

  S.Y さん 脳性麻痺 1種1級
    ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第11期生)

 NECソフト株式会社に勤務決定! 

  U.R さん 慢性関節リウマチ1種1級
    (在宅パソコン講習第16期生)

 マイクロソフトオフィスユーザ
    スペシャリスト(MOUS)試験
      Excel2000一般レベル合格
 

  K.H さん 頚椎損傷 1種1級
    (在宅パソコン講習第17期生)



編 集 後 記

 日本障害者雇用促進協会の「障害者雇用促進のための職場改善コンテスト」で、(社副)東京コロニーデジタルメディアセンター(略称DMC)が奨励賞をいただきました。 テーマは「完全在宅勤務の導入と在宅勤務者も含めた嘱託医による健康管理」です。

 DMCでは、現在、重度の障害のある職員4名が完全在宅勤務を行なっている他、4名が一部在宅勤務(週1〜3回の在宅勤務)を実施しています。 自らの職場での在宅勤務制度の導入で得た経験を、広く在宅就労在援事業にも活かしていきたいと考えています。

(岩田)    
※DMCのURL http://www.tocolo.or.jp/dmc/


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