重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.2 1994.6(平成6年)

私、在宅勤務しています!
企業実習を受け入れてもらえませんか!
平成6年度在宅パソコン講習生を迎えて
修了式〜講習を振り返って(田中 崇氏)
ONE・STEP企画のコーナー

   とらの直撃インタビュー《Part 2》
私、在宅勤務しています!
当センターの講習生から始め、今年4月に雇用(準雇用*1)となった小田政利氏にインタビューしてみました。
プロフィール
    東京都北区在住、25歳男性。
    筋ジストロフィーによる上下肢障害があり、1種1級。


とら:現在の仕事についたきっかけは?
小田:
高校まで普通校に通い、コンピュータ専門学校に入りました。 専門学校卒業時に集団就職説明会に参加しましたが、在宅勤務を希望していたことで受け入れてもらえませんでした。
東京都の身障センター職能科に相談に行ったところ、トーコロ情報処理センターを紹介されました。

とら:当センターではどのような形で仕事をしてきましたか?
小田:
初め3年間*2の在宅パソコン講習を受講しましたが、専門学校で既に勉強していたため1年目の後半からOJT(On The Job Training)を受けました。
修了後はセンターの授産作業者として2年間仕事をした後、今年4月から雇用になりました。

とら:どのような勤務の形ですか?
小田:
基本的には月曜日から金曜日の9:00〜18:00の在宅勤務で、週2回母の車での送迎でセンターに通勤しています。通勤した時は10:00〜16:00の勤務時間にさせてもらっています。

とら:在宅勤務の良いところは?
小田:
体力的に楽ですね。 通勤がないので睡眠が多くとれますし、休みたい時自分のベッドに横になれます。 センターにもベッドはありますが、やはり横になりにくいです。 また、母に送迎をしてもらっているので、母の負担を考えても在宅勤務ができて助かっています。

とら:逆に悪いところは?
小田:
1人でこもって仕事をするので気がめいることがあります。 体力的には楽ですが、精神的にはかえって疲れます。 センターに出勤した時は回りの人と話をしたりしますから...、在宅の方が集中しているせいかもしれないです。 また、時間のけじめ、自己管理がむずかしく「きりのつくところまで」と思って休憩をとらずにやりすぎてしまい、疲労につながることがあります。

とら:現在の勤務の形で「もっとこうしてほしい」といった所はありますか?
小田:
勤務の形については上司に希望を出せば配慮してもらえるので、自分でも「どうしたらより疲れずに仕事をしていけるか」をいつも考えています。

とら:仕事をしていて「しんどいなあ」と感じる時はどんな時ですか?
小田:
新しいプログラム作りは問題ないですが他の人の作ったものを改善するのは苦手です。 キーボードを打つ姿勢が体力的にしんどいようになったので、片方の肘をついて紙の上で筆記してまとめてから入力に入るように作業方法を変えたいのですが、慣れたやり方を変えるのはなかなかむずかしいです。

とら:将来に向かっての目標のようなものはありますか?
小田:
今回、雇用が実現して非常に嬉しいですが、「準雇用」なので次は正式な雇用をめざしたいです。
注)*1:
準雇用:身体障害などにより正規従業員に比べて、8割以下の勤務時間とならざるを得ない者に雇用の機会を提供するために当法人が独自に設けた制度(一般社会におけるパートタイマー就業規則をベースに雇用期間を従業員と同様の60才までとする制度)による雇用
  *2:
93年度までは、在宅講習期間は3年でした


企業実習を受け入れてもらえませんか?
 私どもの東京都の補助金による「在宅パソコン講習」では、企業で仕事をしていけるレベルをめざしてカリキュラムを組んでいます。 今年から2年間の講習の最後に企業での職場実習を取り入れたいと考えています。

 講習生たちのほとんどは通勤が困難なため、実習もその後の就職も「在宅勤務」を原則に考えております。

 職場実習にあたっては、当センター職能開発係の者が共に担当いたしますので、実習生を受け入れていただく企業にとっては「在宅勤務制度導入」の検討材料として良い機会になると確信しています。

 職場実習の機会について受け入れ可能、または検討の可能性がありましたら、トライアングル事務局までご連絡を賜りますようお願い致します。


平成6年度在宅パソコン講習生を迎えて
 4月1日金曜日、平成6年度第12期生の在宅パソコン講習開始にあたってのオリエンテーションを実施しました。

 新年度の講習生は4名(「品川区在住、18才、CP*31種1級」、「品川区在住、19才、CP1種1級」、「大田区在住、32才、両足切断1種2級」、「足立区在住、47才、心臓疾患1種3級」)で年齢も障害もさまざまです。

 オリエンテーションは新講習生、講師陣、その他関係者の紹介のあと、講習内容や講習の進め方についての注意事項の説明があり、盛りだくさんの内容に期待と不安がいりまじった(?)表情の新講習生でした。

 その後、共に講習を受ける先輩の11期生との顔合わせということで昼食会がありました。昼食をいただきながら先輩たちの話を聞き、少し安心しつつ、これからの講習に向けてやる気満々といったところでした。


修 了 式
 去る3月16日水曜日、在宅パソコン講習第9期生1名と第10期生3名の修了式を行いました。世田谷区在住の満仲さん(28才、頚椎損傷)、練馬区在住の秋山さん(26才、頚椎損傷)、杉並区在住の田中さん(22才、CP)、八丈島在住の佐々木さん(24才、筋ジス)の3年間の講習の締めくくりの日でした。残念ながら満仲さんは体調を崩し出席できませんでしたが。

 修了証書の授与、講師や父兄他出席者からの祝辞、講習生を代表して佐々木さんより挨拶があり、その後リラックスした雰囲気の中で昼食を一緒にいただきました。

 秋山さんは講習期間に自宅でパソコン通信ホスト局(以下BBS局という)を開き、仲間とC言語のプログラムを受注開発するまでに技術を身につけ、この度、当センターのBBS局トーコロBBSのバージョンUP作業を一手に引き受けてくれることになりました。

 田中さんは障害のために話すことができませんが、足で合図をしたり文字盤を使ってコミュニケーションをとりました。修了後はONE・STEP企画に所属して養護学校の後輩のための学習ソフト開発に参加する予定です。

 そして、八丈島の佐々木さんは講習修了後は、八丈支庁や「ちょんこめ作業所」(佐々木さんが所属する島の障害者の人たちのための作業所)の仕事をします。また、満仲さんは体調が不安定でありながらも意欲的にソフト/ハードの情報を収集していました。早稲田大学の学生としてしばらく在籍する予定です。

 4人の修了生が、これから新たな場でこれまで学んだ技術をいかして、活躍してくれることを心から祈っています。


「3年間の講習を振り返って」
在宅講習10期 田中 崇  

 私が3年前、この講習を受けるための適性検査を受けたきっかけは、当時私が通っていた通所施設があまりにもたいくつで「このままでは自分を見失ってしまう」という恐怖感から抜け出したかったからでした。

 そして講習初日、今考えると「なんであんなに」というぐらいにディスプレーの前で緊張していて、昼食も喉を通らなかったことさえ今では良い思い出です。

 最初は情報処理技術者の国家試験があることさえ知りませんでした。 でも当時、職能開発係だったNさんが巡回指導のときに言った「こういう試験があるから受験してみれば」という一言がきっかけで情報処理試験を受けることになりましたが、いまだに合格できずに苦労しています。

 スクーリングでは普段関係者しか入ることが出来ないNEC本社ビルを見学に行ったことや、以前私がアメリカに旅行したときニューヨークでお会いしたエマーマン女史が情報処理センターを訪問した時に再会できたことも良い思い出になりました。

 3年間でBASIC、COBOL、そしてC言語と、3種類のコンピュータ言語を習いました。 それぞれの言語には長所短所がありますが、これらの言語に限らず、「どの言語を使ってプログラミングするときもこれだけは忘れてはいけない」という一番大切なことも習いました。 それは「人に対する優しさ」です。 どんなに処理効率が優れていようと「人に対する優しさ」がなければ優秀なプログラムとはいえないと私は思います。


トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 「ONE・STEP企画」は、在宅パソコン講習を修了したメンバーを中心に、トーコロ情報処理センターの協力で、1992年(平成4年)4月に発足しました。グループの名前には、一歩ずつ確実に築き上げて行こうという願いが込められています。

 在宅パソコン講習で習得した技術と知識を生かしての社会貢献効率的な仕事の受注メンバー間の情報交換の3つを目的に活動しています。主な活動内容は、養護学校向けのソフトウェアの開発販売、データ入力・加工などの仕事の請負、技術を生かしたボランティア的な地域活動(パソコン通信ネット局の運営協力、身障者向けのパソコン講習)などです。

 トーコロ情報処理センターとは独立した組織ですが、いろいろな相談や仕事の受発注などで人的援助が必要なため、コーディネーター部分で援助を頂いています。また、この夏(8/25,26)に実施の「身障者向けパソコン通信入門講習会」では、会場を日本電気(株)さんのご厚意によりお借りして、NEC C&Cスクールの教室で行なう予定になっています。

代表 吉川誠一(元在宅講習8期生)


編 集 後 記

 不況が続き、失業者、就職が決まらない若者が増える中、障害のある人の「在宅勤務」実現の壁を私たちは少しでも薄くしたいと考えています。物理的な壁をこえる手段は種々の機器によって可能になってきています。私たちは企業の方々の心の壁が薄くなることが実現への決め手であると考えます。

 「在宅勤務」には、メリットもたくさんあるはずです! 読んでいただくことで、「在宅勤務」のメリットを1つずつでも発見していけるような「トライアングル」でありたいと願い、今後も努力していきます。

 在宅パソコン講習事業では、また新たな講習生を迎えました。新しい出会いがあり、またそこに新しい可能性が生まれるのだと信じています。



前のページに戻ります玄関に戻ります