重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.1 1994.2(平成6年)

発刊にあたって
重度身体障害者在宅パソコン講習事業の紹介
私、在宅勤務しています!
障害者職業生活相談員講習会を受講して

発刊にあたって

社会福祉法人  東京コロニー常務理事
トーコロ情報処理センター所長  【勝又和夫】


 在宅パソコン講習事業の充実を
 私共トーコロ情報処理センターは、社会福祉法人東京コロニー(基本金12億8千万円、従事者数714名内障害者355名、「障害者の自立を目的に東京都内15ケ所にて施設等を設置・経営」)が東京都の補助により付帯的公益事業として設置・経営する施設です。

 この度、当センターの行う『重度身体障害者在宅パソコン講習事業』(東京都補助要綱)に関連し、この事業を一層充実したいと考え、この広報を発刊させていただくことにしました。


 「在宅勤務制度」に広がり
 私共では1978年頃から通勤が困難な重度の障害者が就労するための一手段として「在宅勤務」の可能性を調査研究し始めていました。

 しかし労働法上の位置付けが必ずしも明確でなかったことや我が国の企業風土と雇用管理上の問題などから、社会的には普及することなく当センターをはじめとするいくつかの企業で採用されたにとどまっていました。

 ところが、1991年4月1日付の労働省職業安定局長名による各都道府県宛に出された通達で「雇用保険並びに身体障害者雇用率制度の在宅勤務者に対する適用上の指針」が示されたことにより、法制上の位置づけが定まり、併せて近年の技術革新の進展によって雇用管理上の問題も解決されはじめ、序々にではありますが在宅勤務制度は広がりをみせはじめています。


 当センターの在宅勤務
 当センターのこれまでの在宅勤務制度は通勤してくることを原則に、通勤距離や体力、さらには障害の状況等から週1〜4日の在宅勤務を労働法規上の営業員等に適用される「みなし勤務」として認めていました。

 現在この制度を利用するものは10名(当センターの従業員の15%)にのぼります。


 在宅勤務する障害者が増えて欲しい
 私たちは当センターで培ってきた在宅勤務の可能性を広く社会の皆さまに知っていただき、一般企業の中に在宅勤務する障害者が増えるよう努力していきたいと考えております。

重度身体障害者
在宅パソコン講習事業の紹介


 障害のない人にとっては、勉強や就労のチャンスは数多くあるにも関わらず、障害があるが故に、コンピューターについて勉強したい、仕事がしたいというささやかな願いをかなえることが困難な状況にあります。

 トーコロ情報処理センターでは、このような重度の身体障害のある人を対象に、平成元年度から東京都からの補助事業として、『重度身体障害者在宅パソコン講習事業』を実施しております。

 本講習事業の目的は、

      [1]日常的に少しでも役立つコンピューター操作技術の習得と
        コンピューターの活用

      [2]プログラム作成に必要な知識・技術の習得を図る

 の2点を可能にすることです。

 更に付随して、パソコン通信の技術得ることにより、情報面での行動範囲の拡大を図ることも目的としています。

 また、就労や生きがい活動を遂行するために必要な社会性も同時に身に付けてもらうことを目標としています。

 講習内容は、以下の通りです。

  講習期間

     2年間(1日4時間から6時間、週22時間程度在宅で学習)

  カリキュラム

     1年目
         コンピューターの基礎知識を身につける
         在宅講習に必要な事柄の習得
         コンピューターの基礎知識(ソフト/ハード/情報処理一般)
         情報処理試験第2種共通テキスト利用

     2年目
        [1] アプリケーションソフトコース
            ・ワープロ、表計算、データベース等各種基本ソフトの習得
            ・各種アプリケーションソフトの習得
                DTP
                ネットワーク
                マルチメディア等

        [2] プログラマーコース
            ・プログラミング(C言語)、VisualBasic言語
            ・効果的なテスト項目の作成
            ・デバックの方法を身に付ける
            ・ソフトウエアの品質
            ・プログラム書法

 また、在宅で学習を行うため、日々の学習報告や質疑応答、課題の提出などは、パソコン通信を利用します。更に、定期的な巡回指導や必要に応じ集中講義などを実施しています。

 現在10人の講習生が在籍していますが、そのほとんどは車椅子を利用しています。在宅で学習する事は高いレベルの計画性や自己管理などが要求されますが、彼らはそのハードルを見事にクリアし、日々の学習に意欲的に取り組んでいます。
              


 来年春には、4人の講習生が修了しますが、修了後は在宅で仕事がしたいと願ってもまだまだ重度身体障害者の就労環境は立ち後れているのが現状です。

 雇用する事業主にとっても見知らぬしかも重度な障害者を雇い入れる事はかなりのリスクを背負うことになるかと思うのですが、先ずは働く経験をさせる機会を彼らに提供して頂きたいと思っております。

 障害者と健常者が共に働くことで必ずやお互いにプラスになるものと信じています。


   とらの直撃インタビュー《Part 1》
私、在宅勤務しています!
 在宅勤務をしている方はまだまだ少ないのが現状ですが、まずは当センターで在宅勤務をしている高井正彦氏に直撃インタビューしてみました。
プロフィール
    千葉県鎌ヶ谷市在住、37歳男性。
    頚椎損傷による上下肢障害があり、1種1級。


とら:現在の仕事についたきっかけは?
高井:
都立身体障害者センターの職能科に就職についての相談にいったところ、当時…写植、和文タイプ、コンピューターからの三者択一ということでした。写植や和文タイプは指先がすばやく動かないとハンディが大きいですし、将来性を考えるとコンピューターに取組むのがいいだろうということになりました。
ちょうど、トーコロ情報処理センターが開設される時期で応募することにしたわけです。

とら:勤務をはじめてから何年くらいになりますか?
高井:
当センターは昨年10周年を迎えました。
私は一期生ですから、10年になります。

とら:最近手がけたシステムには、どんなものがありますか?
高井:
都の高齢者スポーツ大会の競技種目と参加者の検索・分類・印刷処理などのシステムや某研究所の備品管理システムなどがあります。

とら:現在はどのような勤務体制ですか?
高井:
月曜日と木曜日だけ出勤し、あとは在宅で仕事をしています。 登録制のフレックスが可能ですので、出勤する時は通勤時間がかかるため10:30〜19:30の勤務時間としています。 在宅の時は通常9:00〜18:00の勤務としています。残業はほんの少しある程度です。

とら:逆に在宅の悪いところはありますか?
高井:
通勤時間が2時間前後かかりますので、在宅の時は通勤による疲労がないのが何より助かります。通勤途中に渋滞にあったりすると体力と使い果たしてしまいますから…。
それと、もう一点はトイレの設備が自宅の方は完璧なので安心できるというのがあります。職場にも車椅子用トイレはありますが、別の階にあって離れていますし乗り移りがしにくいのですが、自宅では自分の部屋のすぐ隣にありますから精神的にも楽です。

とら:現在の勤務の形で「もっとこうしてほしい」といった所はありますか?
高井:
現在は在宅日やフレックスタイムは登録制ですので、あらかじめ申請した曜日に固定されてしまいます。出勤日を体調優先に変更できたり、道路事情がよくて早く出勤できた時は早く就業できるような形になるといいですね。

とら:仕事をしていて「しんどいなあ」と感じる時はどんな時ですか?
高井:
在宅日に客先とTEL連絡をとる時、周りの雑音が子供の声だったり、車の騒音だったりしてオフィスの音と違うので気を使います。在宅勤務ということについて理解のある客先ならよいのですが、そうでない場合もありますから…。

とら:「在宅勤務」があるからこそ、十分に力を発揮することができるということを感じます。
    これからもがんばってください!



障害者職業生活相談員
資格認定講習会を受講して

 去る、10月20日、21日の2日間にわたって虎ノ門パストラルにおいて、日本障害者雇用促進協会が実施する「障害者職業生活相談員資格認定講習会」に出席させて頂きました(実は、このような制度がある事を私は全く知りませんでした)。

 この講習会には約125名が参加し、その多くは求人側である企業の方であり、私のように、就職を希望する重度障害者を一人でも多く企業に就職させたいと考えている求人側の人間は少なかったのではないかと思います。

 講習の内容は

  1. 日本及び東京都における障害者の就職状況や今後の障害者雇用対策について
  2. 障害者を雇用するまでのいきさつや雇用してみての思い、
    また定着をどのように図っているかの事例報告
  3. 障害者雇用に関する各種助成金の説明

 など多岐にわたり、とても密度の濃い講習会でした。

 この中で、特に印象深かったのは、雇用している数者の方々の次のような共通した意見でした。それは、『ポストがあるからそこに障害者を当てるのではなく、障害者が出来る仕事の開拓やちょっとした工夫が雇用する側にもとめられていること、そしてそうすることで障害者でも立派な戦力になる』ということでした。

 なかなか障害者に仕事をと考えるとちゃんとできるかという不安感、何をさせようかと戸惑う負担感がつきものです。しかし、ほんの少しの創意工夫が企業にとってもこれまで以上の作業効果をもたらすものだと言う事をしることができました。

 更に障害者の雇用対策では、重度障害者の雇用対策を最重要課題として取り組む方針が労働省から発表されとても心強く思っています。もちろん、障害者自身が当事者として就労意識を持ち『仕事がしたい』という確固たる信念が大前提にあると言う事は言うまでもありません。



編 集 後 記

 「トライアングル」のいわれは… 我が子が生まれるとき、親の思いを名前に託しますが、この機関紙「トライアングル」にもその思いがたくされています。障害者の就労を実現するためには、一障害者の努力や一企業の努力だけではなかなか上手くいきません。障害者・事業主・行政の三者が一体となって障害者の就労に取り組んでいくことがとても大切です。

 そこで、この三者を三角形にたとえて「トライアングル」と命名しました。

 ご意見・ご感想・お問い合わせなどございましたら、どしどしFAXやお電話でご一報くださるようお願いいたします。



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