4.1 障害者権利条約と「労働及び雇用」
2006年12月13日、ニューヨークの国連本部において障害者権利条約が採択され、2008年5月3日に発効された。全部で50条から成り、障害がない人に認められている権利を、等しく障害者にも保障することを求めている。特に、日本で注目されているのが、第24条「教育」、第27条「労働及び雇用」などである。特別支援学校や作業所など、障害者だけの学ぶ場、働く場があることは、地域から障害がある人を排除することにもつながりかねない。障害があるために、入学試験や入社試験を受ける機会さえ奪われている現実が、今もなお存在しているのは周知のとおりである。
第27条では、働きたいと願うすべての障害のある人に門戸が開かれるよう、必要な施策が講じられなければならないとしている。障害があるために、障害がない人と対等な立場に立てないならば、適切なサービスや支援が提供されなければならない。これが第2条の「合理的配慮(reasonable accommodation)」であり、権利条約のキーワードといえよう。車いすで働ける職場環境を整備したり、聞こえないなど情報障害がある人には、それぞれの困難な状況に応じて確実に情報が保障される手段を講じたりすることである。条約では、障害は環境との相互作用という国際生活機能分類(ICF)の視点に立つ。したがって、障害を克服する努力を障害者に求めるのではなく、環境を変え、必要な支援を提供することを社会の側に求める。そして、この合理的配慮をしないことは差別である、という新しい差別の捉え方も世界に定着しつつある。
このように第27条では、「開かれた労働市場」で、障害のある人の労働及び雇用の権利が保障され、差別が禁止されることをうたっている。さらに、第2項の「あらゆる形態の雇用」には、一般就職が困難な障害者の代替雇用(保護雇用)も含まれているとされる。この点については異論もあったが、国際労働機関(ILO)や当事者団体である国際障害コーカス(IDC)の主張が採り入れられたという。一般の労働市場で働けない人に対しても、有用で報酬を伴い、昇進や、可能であれば雇用の場へ移行する機会を確保する条件で、代替雇用の規定が位置づけられたのである(松井亮輔「労働」、長瀬修他編『障害者の権利条約と日本』生活書院、2008年、169〜170頁)。