(1)の支援者の整理では、サービス内容や利用者に対して支援担当者の数が少ないことが浮かび上がった。次にこうした活動が何によって支えられて運営されているのか、ここから課題をひも解いていきたい。
① 運営費の実態
平成18年度から20年度までに運営費に充てた原資を答えてもらったのが表8である。登録団体、未登録団体双方とも、主に売上から徴収する手数料と、公的な助成金及び公益事業の委託金を運営に充てていることがわかる。
表8 平成18〜20年度在宅就業支援事業の運営基盤に充てたもの
(登録団体)
運営に充てた収入 | 団体数 |
---|---|
売上の中から徴収する手数料等の収入 | 6 |
研修や講座開催の折の受講料 | 1 |
寄付金(企業・個人) | 1 |
助成金(国・自治体・助成団体・その他) | 5 |
公益事業等の受託金(国・自治体・その他) | 3 |
その他の収入 | 0 |
不明 | 2 |
(未登録団体)
運営に充てた収入 | 団体数 |
---|---|
売上の中から徴収する手数料等の収入 | 5 |
研修や講座開催の折の受講料 | 2 |
寄付金(企業・個人) | 1 |
助成金(国・自治体・助成団体・その他) | 4 |
公益事業等の受託金(国・自治体・その他) | 6 |
その他の収入 | 3 |
不明 | 3 |
ちなみにこのうち、額として「最も大きい」という回答が多かったのは、表内太字の「助成金」「公益事業」であり、ヒアリングからは、正味、これが「人件費+αの主となる(E団体)」といった実情がわかった。
② 売上の現状と手数料の実態
では、在宅就業支援事業の受注額はどれくらいであり、そこから徴収する手数料はどれくらいの割合であろうか。平成20年度の結果が、次ページの表9と表10である。
表9 平成20年度受注額(登録団体)
平成20年度受注額(未登録団体)
表10 売上の中から徴収する手数料等の割合(登録団体)
売上の中から徴収する手数料等の割合 | 団体数 |
---|---|
売上全体の約3% | 1 |
売上全体の約10% | 1 |
売上全体の約20% | 2 |
売上全体の約27% | 1 |
売上全体の約30% | 1 |
不明 | 5 |
(未登録団体)
受注があった団体のみの平均年間受注額を取ると、登録団体は「935万円」、未登録団体は「173万円」であった。また、徴収平均手数料は、登録団体が「16.5%」、未登録団体が「15%」。ここから大まかに察するに、この事業での売り上げからの手数料収入は登録団体でも年間平均154万円ということになり、専従の職員の年間人件費1人分が出るか否かという状況であることがわかる。
(ちなみに人件費等運営費が保障されている公的機関等は、手数料は貸出機材やソフト購入費に充てているとうかがった)。
また、受注自体を詳細にみると、未登録団体を含めてほとんどが500万前後あるいはそれを下回るという根本的な課題がある。売上が伸びていかない理由については、アンケート及びヒアリングから実に数多くのご意見が挙がった。以下におおまかに概要をまとめる。
○売上が伸びない主な理由
受注できる仕事が限られる
- 障害が重い方や、技術力が高くない方が多いので、受注できる仕事の幅にも量にも制限がある。
- 在宅就労者の能力と仕事のギャップ 。
- 民間の納期が厳しいものは無理、スピードに限界。
力量の高いメンバーが常に不足
- 長期に渡って育て、一定の収益を上げられるようになった人もいる。そういったメンバーは稼ぎ頭であるが、同時に就職できるよう支援をし、外に出すため、売上は延びない。常にビギナー級の人がメンバーの多数になってしまう。
受注力の不足
- 支援者の事業運営や営業の経験が浅い。ノウハウのなさ。ニーズが先立つ現状。
- 支援者の人数が少なく、営業、広報等のマンパワー不足。
- 1,2名の人員では教育・訓練で手いっぱい、コンスタントな受注は無理。
そもそも発注促進の制度になっていない
- 在宅就業支援制度は「仕事が入るカラクリ」でないといけない。しかし、全く企業にとって使える制度でない(使いたい制度でない)。これを受注の切り札にすることは無理((3)⑤参照)。
売上を運営基盤にする以上、営業力・技術力をあげるための努力が必須であることはどの支援団体も異論はない。しかし、実際には2.1で見たように、非常に多様な対象者(しかもビギナー層)が多く、かつ、在宅就業支援制度では、実力をつけてきた段階で一般就労への移行が考慮されるため(業務内容として雇用支援も規定されている)、売上からの手数料収入で安定した支援の基盤体制ができるということはまず難しい。そこで、そこを補うため、表8で見たようにほとんどの支援団体は、助成金や公益事業を取り、工夫しながら運営費に充てているのである。
③ 助成金・公益事業の実態
人件費、運営費の原資のほとんどは、単年度の助成金や公益事業の受託であった。中でも、多くの支援団体は、障害者自立支援法の「地域生活支援事業」の中の「重度障害者在宅就労促進特別事業(バーチャル工房支援事業)」というものを活用していることがわかった(資料編参照)。
この事業は、1章に記したように、同名のものが、2005年度に労働施策として障害者雇用対策課から創設され、3年間有効であった。基本的にはその目的、方法を引き継いでいるものだと思われ、有効に使っている団体も多かった。しかし、現在のこの制度は自治体(県・区市町村)の事業であるため、自治体によって金額や事業への積極性に大きな差異がある。ヒアリングでも、この補助が途中で無くなった(あるいは減額された)ために、緊急で別な助成金を単年度で取り、文字通り食いつないでいるといった内情が複数あった。綱渡りであるため、「長期的なビジョンを持てず、リーダー育成などには使えない」といった現実もあがっている。
一方で、有効に活用できる助成金および委託事業を安定して受託した場合には、大きな効果があったこともデータとしてあがっている。「ジョブコーチのような目的でお金がついた年は27人中17人が就職した(A団体)」「専業の職員をつけられたのでワーカーへの支払いが増えた(J団体)」。また、昨年度で在宅就業支援団体を辞退した団体からは、「在宅支援を安心してできる環境整備が第一。適正な助成金があったら事業を続けられた」という声も出た。