(1)で見た支援団体の利用者の多様性は、そのまま、技術や作業能力、仕事への意識の差異につながっている。ここでは、収入や労働に関わる能力や準備度を見ていく。
① 利用者の収入の概要
平成20年度における在宅就業障害者に対する支払額の人数内訳を聞いたものが、表8である(金額は、1人に対し1年間に支払った額の合計)。
表8 登録団体全体を対象にした支払い金額ごとの利用者数 (登録団体)
参考)アンケートで取った登録団体の年間支払総額と、
支援対象の人数で割り出した一人あたりの平均支払金額(年)(登録団体)
団体1 36,000円 / 団体2 92,000円 / 団体3 178,000円 / 団体4 326,000円
団体5 360,000円(0円 2団体 / 不明 2団体 / 通所施設 2団体)
未登録団体全体を対象にした支払い金額ごとの利用者数(未登録団体)
参考)アンケートで取った未登録団体の年間支払総額と、
支援対象の人数で割り出した一人あたりの平均支払金額(年)(未登録団体)
団体1 2,000円 / 団体2 13,000円 /団体3 15,000円 / 団体4 31,000円
団体5 40,000円 / 団体6 51,000円 / 団体7 63,000円 / 団体8 200,000円 /
団体9 385,000円 / 団体10 470,000円(不明 1団体 / 発注事業をしていない4団体)
年間に支払った額が「25万円未満」あるいは「支払いは一度もない」という利用者の割合は、登録団体で72%、未登録ではなんと90%近くをしめていた。
一人当たりの年間平均支払い金額は、登録団体で約141,714万円(発注0円の施設を除けば、198,400円)、未登録では127,000円であった。月にすると、いずれも1万円強である。
登録団体では、ひと月平均10万以上の収入がある利用者は6%で1割にも満たない。しかしそういうメンバーも確実に存在していることもわかる。
② 収入結果の理由と考察
「25万円未満」あるいは「支払いは一度もない」という利用者が7割〜9割であるという現実については、「彼らはこれで精一杯なのか?、orもっと仕事が欲しいのか?」という質問によってヒアリングで現実を導いていった。
まず、「もっと仕事が欲しいのか」という質問についての答えは、1つの団体を除いて全ての答えが「仕事は欲しい」というものであった。しかしそれを阻むのは「団体運営の脆弱さ」から来る事業性の限界と、「利用者本人の稼得能力(現段階の)」から来る限界と、2つの課題であることがヒアリングから浮かび上がった。団体運営の課題については次項で取り上げることにし、ここでは利用者本人の課題について見ていくこととする。
? ヒアリングからは、収入の低い人については、まず「仕事の幅が増えないので出せる仕事の種類が少ない(J団体)」「本人能力(のため)、見合った仕事が得られない(E団体) 」など、発注したくとも任せられないITの技術力不足が嘆かれた。この技術力が身に付かない問題は、さらに細かく団体の発言を見ていくと下記のように大別できることがわかった。- i 障害ゆえの労働時間や作業効率の限界
- ii 就労に耐えうる学力の不足
- iii 職業能力以前の資質的な問題
中でも、iiiの職能以前の資質的な課題として、「意欲のなさ」「受け身」というキーワードが特に目立った。そもそも技術的には低くない人なのだけれど、意欲がないため仕事をとらない、次のステップの勉強をしない、といった具合である。完全に受け身である利用者に「協同組合の看板を一人ひとりが背負っている(C団体)」といった精神的な示唆を与えたり、「(就労レベルなどが)低い人にあわせて行っている事業ではない(同団体)」とあえてメンバーに厳しく話すなど支援団体の苦労はつきない。「意識改革には時間がかかる(D団体)」という覚悟が必要である。
「意欲のなさ」「受け身」とは少し違うが、仕事を出せない理由として、本質的な「社会性の不足」を挙げる声も多かった。支援団体の声の中には、「”なぜ納期を守らなければならないのか”といった質問を受けて驚いた。社会の仕組みやその仕事の目的を理解してもらうには、相当の訓練や経験が必要である(A団体)」、「個々の社会性や意識の差には大学生と幼稚園くらいの幅(C団体)」といったものがあった。
こうした積極性や社会性の不足が生み出す就労の困難さは、当然、在宅就労だけではなく施設就労の現場でも当てはまり、この種の課題は昨今叫ばれている。しかし、在宅で働くということは、常に細かい指示を仰げないということであり、当然個々人の管理能力や裁量が必須であり、ビギナーであっても一定の問題解決能力や「求められていることへの理解、成果に対する責任と対価の感覚(C団体)」を自分自身で持ち合わせていなければならない。その観点から言えば、上記の資質の不足は、働く上で施設就労と比較にならないほど致命的なものとなる。
教える側にとっても、資質的課題は、ITの技術と違い、遠隔で教えていく難しさがある。ヒアリングでは「在宅就業支援ではそこまで把握できないし人手もない、社会全体で見て、そういう人でも働けるようなひとつのあり方として福祉就労の中の在宅支援は存在して欲しい(C団体)」や、「仕事に対する意識の持ち方には問題があるが(略)技術を習得する力は持っている。そうした人材を育て就労に結びつけるのには、福祉就労制度が適している(A団体)」など、福祉的な視野を持って育てる視点との連携へ期待が寄せられた。
ところで、「障害ゆえの労働時間や作業効率の限界」等の理由により、収入が極端に低い人は当然ある。この点についての論は、在宅就労の問題にとどまらない。施設での就労も含め、職業的に極めて重い障害のある人の”所得保障”という大枠の課題であり、別枠で検討が急がれる。