(1)対象者の整理-「そもそもなぜ在宅?」
在宅就業支援団体を利用して働いている人たちは、一体どういう状況の人たちで、そもそもなぜ在宅なのであろうか。アンケートでわかった障害概要や利用動機などから、それを明らかにしていきたい。
① 利用者の障害概要
障害種別に着目すると、表1のような結果になっており、対象者は重度身体障害の方が圧倒的に多いということがわかる(※ここで重度とは障害者手帳1,2級の方)。
表1 利用者の方の障害概要(登録団体)
利用者の方の障害概要(未登録団体)
10団体のヒアリングで分かったその障害内容の内訳は、いずれの団体も重度の「頸椎損傷」「脊髄損傷」「脳性麻痺」「内部障害(腎臓、心臓)」等が多く、単に移動ができないだけでなく長時間の作業ができない等の制約がある方が多かった。
その他、障害種別の傾向としては、「筋ジストロフィー」をはじめとする神経や筋肉の難病の方も多く、呼吸器を常時あるいは定期的に利用するなど暮らしに大きな制限をもつ利用者もあった。中には、本書冒頭のインタビューの方のように生活施設で就労している方や、常に医療との連携が備わっている病棟で生活しているような方、あるいは、多発性硬化症やパーキンソン病など、日によって状態が変わりやすい方も対象となっていることがわかった。
アンケートおよびヒアリングで強い傾向として明らかになったのが、身体障害の方に次いで、精神障害の方の割合が大きいということであり、「もとプログラマー」という方から、「居場所としての参加」という方まで様々であった。
加えて支援団体は「その他の障害」「障害者以外」へのサポートも実施していることがわかった。
主たる「その他の障害」は、学習障害(LD)、注意多動性障害(ADHD)、アスペルガー症候群など、発達障害と括られる困難さを持つ人たちが多いことがあがってきた(ヒアリング検証の結果、これは全国的に同じような傾向が見られた)。
また、主たる「障害者以外」は表2のような方々であった。
表2 在宅就業支援 登録団体
障害者以外の支援対象 | 団体数 |
---|---|
手帳取れない方(難病、精神疾患等々) | 4 |
子育て中 | 1 |
介護で定時通勤が困難な方 | 1 |
交通機関が利用できない方(精神疾患の方など) | 1 |
母子家庭の母親 | 1 |
上の表は実際に就労支援のレベルまでを実施しているカウントであるが、就労前の問い合わせや相談レベルの対応も入れると表を大きく上回る団体が、障害認定の難しい方を多様に支援しているということがヒアリングからあがった。制度の谷間の人やいわゆる“引きこもり”という状況に陥っている就労困難者なども範疇としているということであった。
一方、支援団体が利用者をメンバーに登録する際、どれくらい障害種別やその重さを重視しているかというと、アンケートからは、「ほぼ重視していない」ことがわかる(次ページ表3)。在宅就業支援団体も未登録団体も、メンバー要件として重んじているのは「意欲」であり、幅も深さも多様な障害の方の駆け込みをできる限り受け止めているというイメージが見えた。
表3 利用者の登録要件 (支援団体)
登録要件 | 団体数 |
---|---|
これまでの仕事の経験 | 3 |
作業のスピード | 0 |
仕事への意欲 | 9 |
通勤や通所等のための移動の困難度 | 3 |
他からの推薦・紹介 | 3 |
居住地(貴団体が支援可能な地域かどうか) | 4 |
その他 | 6 |
利用者の登録要件(未登録団体)
登録要件 | 団体数 |
---|---|
これまでの仕事の経験 | 5 |
作業のスピード | 3 |
仕事への意欲 | 10 |
通勤や通所等のための移動の困難度 | 2 |
他からの推薦・紹介 | 1 |
居住地(貴団体が支援可能な地域かどうか) | 2 |
その他 | 3 |
登録条件は特にない | 1 |
なお、表1の障害概要から、割合としては少ないが、重度ではない障害の方も利用していることがわかる。ヒアリングによると、視野障害のような方や軽い片麻痺の方、片手の方などもメンバーであった。少なくともこうした方は障害から言えば在宅でなくとも働ける可能性が高いはずである。このあたりの理由は次の「利用者の動機」で見ていきたい。
② 利用者の動機
利用を希望する方がどのような理由または動機で在宅就業を希望しているかを問うたのが下記の設問である。
表4 登録の理由(登録団体)
理由あるいは動機 | 団体数 |
---|---|
希望職種やこれまでの職業経験から、在宅就業が適している | 4 |
体の負担が少ない | 7 |
通える範囲の福祉就労施設等に、本人の希望する内容あるいは希望レベルの仕事や訓練がない | 4 |
利用できる移動手段や移送サービスが十分でなく通いが困難 | 5 |
その他の事情により、在宅しか就業の選択肢がない | 5 |
登録の理由(未登録団体)
理由あるいは動機 | 団体数 |
---|---|
希望職種やこれまでの職業経験から、在宅就業が適している | 2 |
体の負担が少ない | 7 |
通える範囲の福祉就労施設等に、本人の希望する内容あるいは希望レベルの仕事や訓練がない | 3 |
利用できる移動手段や移送サービスが十分でなく通いが困難 | 6 |
その他の事情により、在宅しか就業の選択肢がない | 5 |
動機トップの「体の負担が少ない」は、当然であり本来的な理由である。意外と多かったのが「利用できる移動手段や移送サービスが十分でなく通いが困難」と「その他の事情により在宅しか就業の選択肢がない」という理由であった。どちらかというと消極的な動機であるこの2つをあわせれば「体の負担」よりも圧倒的に多い回答である。
「利用できる移動手段や移送サービスが十分でなく通いが困難」については、アンケートでも「通えれば就職できる」「トイレの問題が解決すれば通勤可能」などの状況があり、移送手段の不備や、通勤通学にパーソナルヘルプが利用できない福祉制度の限界などがここに色濃く影響しているのがわかる。
「その他の事情により、在宅しか就業の選択肢がない」という答えの「その他の事情」を自由回答から見てみると「一般就労先が見つからない」が最も多く、その他に「医療圏内の問題」や「酸素ボンベ利用」など生活制限からの理由が見られた。
また、「通える範囲の福祉就労施設等に希望する仕事や訓練がない」という理由は、本来は福祉施設利用の対象となるような方が、訓練科目や作業科目が自分に適していないため利用していないということであり、ヒアリングでも「通える施設でパソコンを学べれば一番いい」という状況があった。
あわせて、発達障害や精神障害の方の本来的な支援の場が地域になく、「この方に在宅での職業訓練が適しているのか?」を評価する過程もないまま、「ここしか受け入れがない」で受け皿になっているケースがある。ヒアリングでは「自己管理が難しい方には在宅就労は向かないと伝えている(A団体)」といった回答もあり、そうした状況を裏付けている。
ちなみに、こうした発達障害や精神障害の方が在宅就業支援団体に行きついた経緯はどのようなルートであるのか。アンケート及びヒアリングからは、自分でWEB検索等の手段で見つけるケースに加え、ハローワークや職業センター、就業支援センターなどの労働支援機関からの紹介が多いことがわかった。
表5 利用者が在宅就業支援団体を知った経緯(登録団体)
登録要件 | 団体数 |
---|---|
団体のWebサイトや広報物 | 8 |
新聞や雑誌など | 1 |
他の支援機関やハローワーク等からの紹介 | 7 |
友人・知人 | 2 |
その他 | 4 |
アンケートの数は多く無かったが、「これまでの職業経験から在宅就業が適している」という理由で積極的にこの働き方を選択している方もあった。これは障害に関係なく、自営業者としてのこのワークスタイルを望んでいる人であって、就職の可能性よりも、あえて時間管理や進捗管理が全て自分に課されるこの働き方を自らで選んでいるといえる。
③ 利用者の職種・作業内容
「在宅でどんな仕事をしているのか」を表7からみると、ほぼ9割以上がIT関連である。
①の障害概要で確認したように、利用者は重度の身体障害者が圧倒的に多いことから見て、ITはわずかな指の動きやそれを代替する手段で効率よく生産できる作業ということになるのであろう。成果物をPCで作り出すだけでなく、それをそのまま瞬時に協働作業者やクライアントにネットを介して送ることもできるので、よりハンディが小さく健常者と対等に渡り合える可能性が高い業務であることは言うまでもない。
特筆すべきは、10年前と比較すると高度な作業が多くなっていること。当時はデータ入力やテープ起こしの請負業務が一番多く、それにWEB制作が続いていた。今回の調査では、登録団体と未登録団体を合わせると、WEBデザイン・制作がデータ入力と並んでおり、DTPやデザインがそれに次いでいる。WEB制作においては工程が多様であるので、カメラで写真を撮るだけの担当の人から、データを入れる人、デザインをする人、プログラムを組む人等々、作業を細分化できる。したがって、それぞれの障害や技量に適した人を割り当てることができ、チーム就労に向いている傾向にある。言い換えれば、多様な利用者を抱える支援団体は、そのような作業のノウハウ蓄積や工夫を常に課せられており、その力量こそが在宅就業支援の肝といえる。
表7 作業内容(登録団体)
請け負っている作業内容 | 団体数 |
---|---|
文書・データ入力 | 7 |
テープ起こし | 6 |
WEBデザイン・制作 | 5 |
システム開発(プログラミング等) | 3 |
設計・製図・デザイン | 2 |
エディター、編集 | 2 |
DTP | 5 |
調査、リサーチ | 2 |
翻訳 | 1 |
IT教育関連 | 4 |
物品製造 | 2 |
物品加工・組み立て | 2 |
鍼灸・マッサージ | 1 |
その他 | 1 |
作業内容(未登録団体)
登録要件 | 団体数 |
---|---|
文書・データ入力 | 9 |
テープ起こし | 6 |
WEBデザイン・制作 | 11 |
システム開発(プログラミング等) | 1 |
設計・製図・デザイン | 5 |
エディター、編集 | 1 |
DTP | 7 |
調査、リサーチ | 1 |
翻訳 | 3 |
IT教育関連 | 3 |
物品製造 | 0 |
物品加工・組み立て | 0 |
鍼灸・マッサージ | 0 |
その他 | 2 |
④ 「そもそもなぜ在宅?」の考察
「なぜ在宅就業か」を改めて丁寧に調査してくるにつれ、在宅就業支援団体の利用者が、一般就労や福祉就労と比べて極めて範囲が広く多様であることが明らかになった。同時に「在宅でなくては働けない人」と、社会の制度や受け入れ準備がないため「とりあえず在宅になっている人」の2種類があることも明確になった。
「在宅でなくては働けない人」を大きく分けると、次の観点が挙がった。
- 「移動」
- 車いす利用やベッド利用により、一般交通機関を利用できない 等
- 「トイレ」
- トイレ介助が必要 自宅の専用トイレでないとダメ 時間が非常にかかる等
- 「体調を崩す」
- 移動自体はできるが、疲れやすくあとの作業に影響する 等
- 「体調不安定」
- 日によって、あるいは同じ1日の中でも、温度や気圧によって波 等
- 「時間」
- 在宅酸素利用、あるいは医療、介護で、まとまった時間がとれない 等
- 「薬」
- 服薬等で昼間の時間に作業できない 等
しかし、この中でも、例えば車いす利用でも座位を保持できる方であれば、適切な移送サービスがあれば、事業所への通勤や、就労施設への通所が可能となるかもしれない。
トイレ介助が必要な方も、就業中に(あるいは通勤通学に)ヘルパーを適切に利用できれば同様である。このあたりは、日本の福祉サービスの貧困さ、未熟さが如実に影響している。
「とりあえず在宅になっている人」のパタンをあげてみると、
- 一般就労に結び付かない
- 通所できる福祉施設や作業所があっても、希望するITの仕事や訓練がない
- 精神障害(疾患)のため、対人が難しい
(駅に行けない、コミュニケーションができない等) - 発達障害(あるいはそう思われる)で、現在どこにも訓練できる場がない
などとなっている。
いわゆる福祉就労と言われる事業所や作業所が地域にある場合でも、「そこに目指すレベルのITの就労の場がない」という話は数か所のヒアリングでうかがった。障害が重く作業量の小さい利用者の多くにとって、③で見たIT作業は効率性の切り札であり、支援団体の生産手法が「ネットワーク就労」であることは肝心要なのである。
主題と外れるが、一人あたりの作業量の少なさについては、ヒアリングで「ワーカビリティとはどこまでを指すか」と少々意地の悪い質問をしている。概ね多くの団体が同様の返答をしており、「働きたいという要求に対しての満足感や生き甲斐を見いだす人がいる以上は、社会としても一セクションとしての理解と支援体制、位置づけの必要がある(B団体)」「いろんな人がいて、それぞれの働きぶり、働き方を受け入れて評価することは必要(E団体)」と、小さな仕事を紡いでいくことを大事にしていることがわかる。
精神障害(疾患)の方や発達障害の方(LD、ADHD、アスペルガー症候群など)については、ヒアリングに「(発達障害等の分野の)専門家でもないので、最初は障害について理解できず困った(I団体)」とあったように、支援団体の手さぐりの奮闘が見える。なかには、「障害者自立支援法の中において中核として役割を担うことになっている機関等が本来の機能を果たさず(略)、ケースを送り込んでくる現状があり、大いに問題点も含んでいる(B団体)」といった厳しい地域の現状もあった。
ところで、そもそも「精神障害の方や発達障害の方は在宅就労が適しているのか」という基本的な課題がある。在宅就業支援に携わる者から言うと、自己管理が何より大事な要素であり、コミュニケーションこそが命綱の働き方であることから考えると、一般的にはこうした方々は、在宅でなく通所で周囲の人と協働するのが本来的だと思われる。しかし、一方で、「彼らは最終的には”在宅でないとダメ”ではない方々かもしれないが、今は対人面が無理なのだから、”在宅からのスタート”は適しているのではないか(I団体)」というスタンスがあったのも非常に納得できた。
とはいえ、「市の発達障害者支援センター等と連携することで支援の方向が決められるようになった(I団体)」という実績があるように、在宅の必要が薄いのに別の理由でここに至ってしまったことが明らかな人については、本来の支援策を講じ、関連機関との連携が支援に効果的であることは言うまでもない。