在宅就労の骨格ができたことをうけて、翌2005年度、まずは「重度障害者在宅就労促進特別事業(バーチャル工房支援事業)」が国の施策として開始された。これは、前述の研究報告において「支援団体の役割」がすでにモデル化されていたこともあり、重度障害者の在宅就労を総合的に促進する事業として位置づけられた。実施は都道府県や政令指定都市に委任され、さらに地域において実績ある支援団体(NPOや社会福祉法人)に委託する形となった。各団体はその組織の特色を活かしつつ、在宅就業を希望する障害者に対する情報機器の貸与や技術指導のほか、実際に仕事を受注し配分する機能も持ち、遅ればせながら、ようやく在宅就業支援に対しての公的なサポート事業として成果を得た。しかしながらこの事業も、時限的なものとして組み込まれていたことや、自治体の裁量で実施をしない地域もある等、長期的に支援制度の仕組みを醸成するレベルとまではいえないものであった。
バーチャル工房支援事業の概要(抜粋)
- ●目的
- 在宅の障害者に対して、情報機器やインターネットを活用し、就労の促進を図ることを目的とする。
- ●事業の内容
- 実施主体が利用者に対し訓練を行うための作業を受注し、教育等を行うほか、雇用希望者のための職場開拓等自立に向けた支援を実施する。
- ●利用者の要件
- 利用者は、身体機能の障害等により企業等への通勤が困難な者であって情報機器を用いた在宅での就労を希望する者とする。
- ●在宅就業支援機関との連携
- 実施主体は、支援機関と連携・協力関係を構築するとともに、当該支援機関に対して、必要に応じて助言・援助を求めるなど、適宜連携を図ること。
(資料出所 厚生労働省)
図1 「在宅勤務・在宅就業等概念図」
2006年、改正障害者雇用促進法において「在宅就業支援制度」および「在宅就業支援団体」における役割や機能が明文化され、ここにようやく、法令としての在宅就業支援の促進が、「雇用促進」の一環として位置づけられるようになった。なお、これらに関連して、これまで雇用・非雇用に関わらず広く一般的に「在宅就労」と呼んでいたものを整理し、雇用形態の就労を指す「在宅勤務」に対して、いわゆる非雇用の就業形態、つまり事業主と雇用関係にない請負契約等に基づく働き方については、「在宅就業」とされた(図1)。
また、世間では、コンピュータネットワークを活用して自宅や小さな事務所で事業を行う自営型の働き手を「SOHO」(Small Office/Home Office)と呼び、一般化した。
「障害者の在宅勤務・在宅就業ケーススタディ」(発行 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 2007年)より
また、当該法の中では、発注奨励対策として、在宅就業支援団体または在宅就業障害者への発注額に応じて発注者に支給する、障害者雇用特例調整金・特例報奨金の制度が創設された(図2)。
図2「発注に対する特例調整金等の支給の流れ」(厚生労働省資料より)
こうして在宅就業は、雇用以外の働き方を発注奨励という形で推進していくものとして法律で定められ、同時に雇用義務に準ずる仕組みという位置づけのもとでスタートした。ちなみに開始年度における在宅就業支援団体の登録数は15であったが、そのほとんどが当該制度の創設以前から各地で草の根的に活動をしている団体であり、不完全ながらも彼らの目指していたものに対し、国が動いて制度が生まれた格好となった。さらにこの制度により、在宅就業支援団体は、仲介、技術指導、利益分配などの役割のほか、新たに登録を目指す団体の指導なども担うようになり、その結果、全国に散在していた支援団体の横のつながりも深めていくようになった。
在宅就業支援団体の登録要件
(「障害者の雇用の促進等に関する法律」第74条等の定めによる)
- 在宅就業障害者に対して、就業機会の確保・提供のほか、職業講習、就職支援等の援助をおこなっている法人であること。
- 常時10人以上の在宅就業障害者に対して継続的に支援を行うこと。
- 障害者の在宅就業に関して知識および経験を有する3人以上の者を置くこと(うち1人は選任の管理者とすること 他