ページスタート本文にジャンプできます。メニューへジャンプできます。トップページへ戻ります。
ビジュアルエリアスタート
library

ホームライブラリー調名誉会長アーカイブ > 誰の責任か、福祉施設の整備

コンテンツエリアスタート
ここから本文です。

ライブラリー

誰の責任か、福祉施設の整備

『コロニーとうきょう109号』1998年07月

一 悲鳴

  小規模作業所(無認可)の集会に呼ばれて、シンポジウムに参加したとき、次のような、悲鳴に似た話を聞きました(いずれも近畿地方)。
 そのひとつは、認可施設化をめざして、日常の苦しい運営を行いながら、施設建設資金づくりのカンパを続けてきた作業所の話です。ようやく建築費の自己負担分くらいの資金ができたので役所に相談したところ、土地を取得していなければダメだと言われた。そこでこれ以上のお金は何年先につくれるかわからないので、銀行から、購入する土地を担保にすることを条件に、5千万円を借りて購入した。しかし、担保に入っている土地では、補助金は出せないと役所から断られてしまったのです。認可施設ができたら、運営の方は楽になるので、ひき続いて支援者の協力を得て、銀行には少しずつ返済していけばよいと思っていたのに困った、というのです。
 かなり以前のことになりますが、北海道でもこれに似たことがありました。福祉工場を建設するための土地を担保に、銀行から借入れて取得したのです。やはり役所からダメを出され、結果として、その福祉工場を推進している2人の個人が銀行借入れを肩代わりして担保を抜き、法人に土地を寄付したかたちにして、福祉工場は完成したのです。2人の個人といっても、中心となって推進していたのは、四肢にマヒのある(車いす使用)障害者で、従業員20人足らずの印刷会社の経営者であり、もう1人はそのよき協力者という関係でした。
 その社長が福祉工場の事実上の責任者であったのですが、その後2年足らずで脳梗塞となり、意識不明が続いたあと死亡したのです。70歳を超えた協力者は、妻と住んでいた家屋敷を担保に入れており、銀行から差し押さえをされる羽目に陥るのです。そして今もその後遺症で法人自身も苦しんでいます。
 話を作業所の集まりに戻しましょう。小規模作業所といっても、その作業所は利用者が60人以上という大所帯です。私もそんな規模の作業所があることを初めて知ったのですが、それだけの規模の作業所を、民間の建物を賃借して運営しているのです。
 問題は賃借の契約が長く続かず、4〜5年で別の建物を探して移ることになって、その都度、権利金や敷金、引越しの費用などが嵩み、そのお金を利用者の家族が負担しているが、日常の運営費の不足の負担もあり、大変辛い状況にあると、これは利用者の家族の訴えであります。同じ障害であるのに、認可施設を利用している場合との不公平はやりきれないと訴えました。
 全国5千カ所といわれる数の無認可といわれる作業所は、基本的には同じ問題を抱えているのです。

このページの先頭へ

二 法内施設といえども

 ご承知のように、この国の福祉施設整備の仕組みは、設置しようとする者がまず土地を用意すること。施設建築費の半分を国、4分の1を地方自治体、残りの4分の1を設置者が負担して整備することになっています。
 補助額は国が定めた単価に基づいて行われます。実勢価格とは必ずしも一致していません。施設の種別によって面積や付帯設備(エレベーターや空調など)の基準も定められています。
 仮に設置者が、国の定めた面積基準では、利用者の処遇が適切に行えないと考えて、基準を上回る面積の建築をする場合は、その上回る部分は当然設置者の負担になります。
 また、都市部では、高額な土地を取得することはたいへんな苦労が伴うため、取得した土地の有効利用を図るために、多階層建を計画し、仮に資金計画の関係で2期に分けて建築するような場合、第1期工事を2階まで、第2期工事で3〜4階を建築するとした場合、1期工事は4階建ての基礎工事と建物の構造を対応させなければならず、国基準を大幅に超えることになりますが、こうした場合も設置者負担になります。にもかかわらず、建物の償却は認められず、認められたとしても財源がありません。
 最近一部の地方で自己負担分の長期借入金等の原資を、県または市が負担するところも出てはいますが、あくまでも一部であって、全体として自己負担分の問題で苦しんでいます。老朽改築などの場合もこの仕組みは変わりません。利益の出る事業ではないし、措置費など公的な運営費補助等は使途が定められているため、施設整備にかかる自己負担は自己(法人)の力で外から調達するしかありません。平成8年10月時点で、社会福祉法人は15,210(うち約3,500は社会福祉協議会)であり、施設の数は61,197となっています。施設の約半分は公立でありますから、ここは自己負担に苦しむことはありません。公営の多いのは、児童施設や保育所であり、比較的規模の小さいものが多いのです。一方、老人や障害者関係の施設はその殆どが民立ですが、施設の規模は大きく、自己負担の額も大きくなります。建設時に自力調達が困難であるため、その相当な部分を制度融資に頼らざるを得ず、その返済に苦しみ続けることになっているのです。

このページの先頭へ

三 なぜそうまでして

 わが国の民間社会福祉施設の事業を歴史的にみると、戦前は慈善家やボランティアなどによってつくられ、戦後は、そうした施設を必要とする当事者や家族の運動の中から建設が進められてきました。
 運動は社会福祉事業法や、各分野の福祉法などの法制度へと結実していき、施設設置に対する国庫補助や、運営費に対する補助制度が実施されるようになります。福祉専門の大学や、一般の大学にも福祉学部が創設され、次第に福祉の専門家が養成されて、そうした人材が施設の新設や運営に関わるようになってきました。
 制度が整備されてくると、都市近郊などで土地を所有している人々が、家族の働く場をつくるために、土地などを投資のつもりで寄付し、社会福祉法人を創設して施設をつくるというケースもみられるようになります。こうしたケースは比較的手軽に始められる小規模な施設が多いのですが、公的事業の私的世襲が問題です。一部にそうした動機や目的で生まれる施設はあるものの、全体としては、高齢者福祉や障害者福祉などに携りたい、と思う人々が中心になっていることは間違いありません。
 当法人が、東京都が設置した身体障害者福祉工場の経営委託を受けたときのことです。ある場面で都の財務局の職員が、私に「なぜ東京コロニーは、こんな難しい福祉工場の経営を引き受けるのですか。どんな利益があるのですか?」と聞かれたことがあります。私はその質問の意味が理解できず、なぜそんな質問をするのかと思いつつも、とっさに「使命感ですよ。このような仕事をするための法人ですから、利益など考えたことはありません。」と答えたと記憶しています。私たちの利益感覚は、法人の行う事業を利用し、あるいは働く人々(障害者)の処遇を高めることにあります。法人そのものが利益をあげることなど考えることもありません。
 この業界にも私腹を肥やし不正を働く不埒な奴も居りはしますが、全体としてみると、やはり使命感のようなものに突き動かされて仕事をしている人々が大多数です。であるからこそ、土地の取得や建設費の自己負担に苦しみながらも、施設をつくり、あるいは増設していくのです。

このページの先頭へ

四 しかし、このままでは

 これからの福祉は、従来の施設型福祉から、在宅福祉中心へと移行するでしょうし、人権の理念からもそうしなければなりません。そのためには通所型の利用施設や、短期の入所または宿泊型の施設整備が大切になります。これを地域にバランスよく、適正に配置することが求められているのです。しかし、現在の施設整備の仕組みのままでは、現実に生じているように、施設の絶対数が大きく不足しているだけでなく、地域偏在が甚だしいのです。
 その原因は、おわかりのように、その地域の長(市町村長)や、民間に福祉に熱心で、かつ実行力がある人がいるかどうかで、施設ができるかどうかが決まる制度だからです。
 一定の地域に、必要な施設を適切に整備する責任の所在が不明確な現行制度に起因するのです。そのうえ障害者施設の場合は、障害種別毎のタテ割り行政が続いており、施設の種類を合計すると40種類にもなっています。こうした細分化された施設制度では、地方自治体が受けとめられる訳がありません。
 無認可の作業所が毎年2〜300カ所も増え続けているのは、述べたような土地や建設費の自己負担の重さのほか、こうした無意味な障害種別オンリーの制度が続いているためでもあります。
 今の施設制度を見直して、障害種別毎に必要なものを除いて、機能を中心に総合化し、施設制度をより単純化する改善を行うことで、市町村が受けとめられやすくすることが必要です。そのうえで市町村と民間の両者が協力して、公立民営方式かまたは民立で施設整備をする場合に市町村が土地を貸しつけるとか、自己負担の相当部分を負担するなどの仕組みができれば、現状は大きく変わるだろうと思います。そうした制度に改めることが必要です。

このページの先頭へ

五 楽しくありたい

 老人福祉施設等は介護保険の制度に移行することとなり、保育所などの児童施設も民間企業の参入を図る方向で動いています。したがって残る障害者施設のあり方がクローズアップされ、そのあり方が焦点となっています。とくに精神障害者の地域ケアのための福祉施策全般と、福祉施設の著しい立ち遅れを含め、障害者分野の施策の遅れが目立ち、その実相が露わになりつつあります。
 社会福祉基礎構造改革の作業の中で、小規模作業所等の問題に適切に対応し、これ以上悲鳴をあげさせないような施設整備の制度の確立を期してほしいと思います。 私利私欲でなく、社会的な必要性を認知される事業は、その存立と安定に道を開くことが政治と行政の責任です。
 その責任のうえで、公・民が相互に努力する姿勢をとることによって、悲鳴をあげることなく、楽しく事にあたれるようにしたいものです。

このページの先頭へ
インフォメーション

PDFファイルをご覧頂くためには「Adobe Reader」が、またFLASHコンテンツをご覧頂くためには「Adobe Flash Player」が必要です。下記より入手(ダウンロード)できます。

  • Get Adobe Reader
  • Get ADOBE FLASH PLAYER

このページはアクセシビリティに配慮して作成されており、障害者や高齢者に優しいページとなっております。

  • Valid XHTML 1.0 Transitional
  • Valid CSS!
  • WebInspectorチェック済み
  • ColorSelectorチェック済み
  • ColorDoctorチェック済み

ページエンド