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<時評>改めて米国を考える

『コロニーとうきょう』2000年07月

 わが国で本年3月に行われた日英シンポジウム(JD・ブリティッシュカウン シル主催)に、英国の障害者組織のリーダー3名が来日して、英国の障害者問題について話しました。その中で、英国で一昨年制定された『障害者差別禁止法 (DDA)』について、米国のADAと比較しつつ、きわめて不徹底なものであると強く批判しました。ADAのように明確に定めておらず、政府の裁量権に多くが委ねられていることへの批判であります。
 確かに米国はADAの中で公共的建造物や情報・通信のバリアフリー化、交通機関による移動の保障、雇用差別の禁止を義務として定めています。ただし、雇用差別禁止については、私が別の場所でも解説しているように、通常の作業能力をもつ障害者を前提としたもので、作業性が劣る者は除外された制度であることを認識しておかなければなりません。
 ご承知のように、米国は徹底した能力主義の国であり、機会の均等を基本として、政府の各種規制を認めず、またわが国のような官僚制度を持たない国です。 中央(連邦)政府と州政府があり、連邦は防衛と外交が中心であり、社会保障制度はわが国の生活保護法に近いものだけで、社会保険制度は未確立です。社会福祉は州政府が中心となって最低限の制度を持つにすぎません。福祉の財源は寄付金に依存しているとも言える文化を持つ国です。
 英国を含むヨーロッパ各国は、国の制度としてしっかりした社会保障制度を持ち、所得の再配分機能も、国によって差はあるものの、そのための制度があります。 私は、このシンポジウムに日本側の発言者として参加したのですが、DDAの問題点はあるとしても、総合的にみれば英国には学ぶべき点が多いと思いつつ、その一方でADAに対する高い評価と、米国の障害者施策の問題に思いを馳せざるをえませんでした。
 最近の新聞でも報じられているように、米国では総資産の50%を、わずか1%の人々が所有していること。あるいは20%の人々が所得の83%を得ており、好景気と言われる中で貧富の差はむしろ拡大しているというのであります。
 つまり、機会の均等化という正当性を前提として、前述したように徹底した能力主義による自由競争の結果がこういう現象を生んでいるのであります。ADAもそうした思想の上に制定された法制であること。そうした一面も承知しておくことが大切だと私は思います。
 一介の学生であったビル・ゲイツがマイクロソフト社を創業して、わずか20余年の間に個人で9兆円を超す資産家となったと報じられていますが、この人の社会的事業への寄付金額も7千億円などと、信じられない金額なのであります。税制が根本的に異なることは言うまでもないでしょう。
 私がミネソタ州で見た障害児の治療とリハビリテーション専門の立派な病院は、寄付によって建てられただけでなく、低所得層の障害児を対象に無料診療が行われていましたが、私を案内してくれた地元のワークショップの経営者(現IPWH会長)は、「これがアメリカだ」と誇らしげに語ったのです。
 何人かの米国の障害者ワークショップの経営者は、ヨーロッパや日本で採用している割当雇用制度には、はっきり拒否反応を示します。逆差別とみているのです。機会の均等化に反するとみるのです。保護(社会)雇用制度など論外という態度です。
 別のところでも書きましたが、米国のADA推進の中心的役割を果たしたジャスティン・ダート(ADA成立当時、アメリカ大統領委員会障害者問題委員長)は、4年前に私が米国を訪れたとき、「日本は障害の重い人でも今日の生活に困っているということを聞かないが、アメリカには障害者を中心に数百万人の路上生活者がいる。アメリカより進んでいる日本からアメリカに何を学びに来るのか?」と言われたことが私の心に深く刻まれています。
 米国から学ぶことは確かにあります。しかし、全体としてヨーロッパ型か、米国型か、というとき、とても米国型は選べないというのが率直な思いです。この国の政治が米国型の社会を指向しているように見えるとき、私たちは心して考え、行動することが大切だと思います。

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